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救急車の適正利用への取り組み

No.4715 (2014年09月06日発行) P.62

石原 哲 (医療法人 伯鳳会 白鬚橋病院名誉院長/東京都医師会救急委員会委員長)

登録日: 2014-09-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

超高齢社会の中,救急車の出動件数は全国で増加傾向にあり,救急病院や救急隊からは疲弊の声が聞かれます。不適切な搬送もある一方で,どのような症状なら病院にかかるべきか,どのような状況なら救急車を利用すべきかがよくわからないと訴える方々も,救急外来では多く見受けられます。このような方々に迅速な救急医療を提供し,また救急車の適正利用を広報するためには,どのような取り組みがありますか。ご回答は白鬚橋病院・石原 哲先生にお願いします。
【質問者】
石川秀樹:帝京大学医学部救急医学講師

【A】

救急需要対策については,これまで総務省消防庁でも様々な対策が検討されています。このうち,2005年に総務省消防庁が検討し,翌年3月に取りまとめられた報告書においては,救急自動車の適正利用に係る周知啓発活動の推進,119番による救急車要請時や救急現場におけるトリアージシステムの確立などが求められています。また,傷病者の重症度・緊急度の判断基準を定め,基準に基づく対応体制の導入について議論されています。
東京消防庁では,第26期救急業務懇話会において「救急業務における傷病者の緊急性に関する選別(トリアージ)及びその導入のための環境整備はいかにあるべきか」の総監諮問がなされ,救急相談センター(♯7119)が2007年6月より開設されています。
この救急相談および救急電話トリアージは全国に展開し,「救急安心センター」の名称で総務省消防庁のモデル事業(平成21年度「救急業務高度化推進検討会」「救急指令・相談業務作業部会」)として検討され,大阪市,愛知県,奈良県,札幌市などでサービスを開始しています。
救急搬送件数こそ減少しませんでしたが,軽症者の搬送割合の減少,および救急医療機関への時間外受診者数の減少がみられ,救急需要対策の一環として今後さらなる広がりを見せる重要かつ有効な事業であることが明らかになっています。また,119番通報を躊躇している傷病者からの利用も多く,救命につながる事例がみられ,担当するスタッフにとってもやりがいのある業務となっています。
119番トリアージについては,横浜市が救急改革特区申請を行い,119番救急通報時における緊急度・重症度識別(コールトリアージ)に基づく救急隊などの弾力的な運用を行っていくことを定め,2008年10月から横浜型救急システムとして運用を開始しています。さらに,フィールド・トリアージとして東京消防庁では,2007年6月から「救急搬送トリアージ」を開始しています。これは現場における観察用トリアージシートを用いて傷病者の容態のチェックを行った上で,緊急性が認められない傷病者に対し自己通院を促し,同意が得られた場合は不搬送とする取り組みです。この方式の導入により1件当たりの活動時間が短縮されるなど,その効果が報告されています。しかし適応率は全搬送の0.6~0.8%と大変少なく,今後の課題になるでしょう。
最後に,現在議論されている病院の救急車を活用する取り組みについて触れさせて頂きます。これは,病院の救急車を用いることにより高齢者の救急搬送を地域内で完結させることをめざすもので,東京都医師会が,大都市における高齢者の救急搬送システムとして,地域医師会を通じ,在宅療養者を対象として,病院の救急車で救急搬送を行う事業です。消防庁の救急車が待機状態でいられる時間が長いほど,現場到着時間の短縮につながり,地域住民の安心・安全につながる重要な事業になりそうです。東京都では,2013年度よりモデル事業として活動しております。
まだ紹介しきれない新たな試みもありますが,誌面の関係上,割愛させて頂きます。

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