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認知症患者の脳解剖で何が明らかになった? 誤診がわかったことは?

 【認知症と診断された患者がそうではなかったことは稀だが,症状がみられ

なかったものの,脳解剖で認知症相当以上の結果となるケースはある】

No.4788 (2016年01月30日発行) P.67

山崎峰雄 (日本医科大学千葉北総病院神経内科病院教授)

登録日: 2016-01-30

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

認知症患者死亡後の脳を分析した研究では,どのようなことがわかっているのでしょうか。生前,認知症として扱われていた患者の脳を解析した結果,認知症所見が認められなかった例の割合はどのくらいですか。 (群馬県 E)

【A】

認知症患者脳の検討によって,現在まで様々なことが明らかにされてきました。まず,神経病理学的アプローチで,疾患特異的な病理構造があるかどうかが検討され,次に異常構造物の生化学的検討が行われるという流れで,アルツハイマー病やパーキンソン病,レビー小体型認知症などが研究されてきています。
認知症の7割近くを占めるアルツハイマー型認知症について述べると,まず,病理学的マーカーである老人斑と神経原線維変化が同定され,その出現頻度と分布から病期(ステージ)が設定されました。認知症を呈する場合には,ほとんどが神経原線維変化のBraakステージ(1から6までの6段階評価)で5以上であることも臨床病理学的に明らかにされました。最近,83例のアルツハイマー病の連続剖検例の検討(文献1)から,アルツハイマー病病理のみを呈する群ではBraakステージ6でないと認知症を呈することが少なかったのに対して,脳血管障害病変があると,Braakステージ4でも認知機能低下をきたす症例が存在したことが明らかにされています。
特に高齢の認知症患者では,アルツハイマー病病理変化のみでなく,レビー小体型認知症の病変や脳血管障害病変など重複病変を認めることが多いことが指摘されており,このような症例の認知症症状の原因において,どの病変が主であるのか,生前診断は可能なのかが問題となっています。
認知症患者の臨床病理学的検討では,ご質問の内容とは逆に「認知症症状が明らかではなかったにもかかわらず,剖検でアルツハイマー病病理変化が認知症相当以上と診断される」症例はよく経験するところですが,ご質問の「臨床的に認知症が認められたにもかかわらず,剖検で認知症を生じうる病理変化が認められなかった」症例は,ほとんど経験されていないと思います。
3施設675例の認知症例の連続剖検の検討(文献2)で2例(0.3%)で年齢相応以上の病変を認めなかったという記載や,フロリダ・ブレインバンク382例の認知症例の検討(文献3)で7例(1.8%)では主な病理変化はなくpathological agingと診断されたという記載がありますので,これらの数値が1つの目安になるものと思います。
いずれにしても認知症の神経病理学的診断は,病理所見だけで行われるものではなく,臨床情報があって初めて完成するものであるということが重要です。

【文献】


1) Bangen KJ, et al:Alzheimers Dement. 2015;11(4):394-403.
2) Jellinger K, et al:J Neurol Sci. 1990;95(3):239-58.
3) Baker WW, et al:Alzheimer Dis Assoc Disord. 2002;16(4):203-12.

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