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ヘマトクリット値・尿酸値を脱水の指標にできる?

No.4783 (2015年12月26日発行) P.62

川田貴章 (聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科)

柴垣有吾 (聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科教授)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

ヘマトクリット値,尿酸値により脱水を簡易に判定できますか。 (東京都 S)

【A】

体液量,特に細胞外液量減少時においては,循環血液量が減少する一方で,赤血球容積は相対的に不変なため,赤血球容積を循環血液量で除した値であるヘマトクリット値は上昇します。さらに,ヘモグロビン値や総蛋白・血清アルブミン値も同様な動きをするため,体液量変化(血液濃縮・稀釈)の指標として用いることが可能です。
このような血液濃縮の指標は,実臨床上にもよく応用されています。たとえば,血液透析の除水中における循環血漿量の変化をヘマトクリット値の変化から推定でき,これを利用した循環動態モニタリング装置が開発されています(文献1)。さらに,最近ではうっ血性心不全における利尿の指標として,この血液濃縮の指標が有用であることが報告されています(文献2)。一方で,ヘマトクリット値(またはヘモグロビン値)は,貧血や出血など,併存する病態によっても変化しますので,その解釈には注意が必要です。
尿酸は体内で産生されるうちの大半が1日で入れ替わっており,その2/3が腎からの排泄であるため,腎排泄量の変化が尿酸値に影響を与えると考えられます(文献3)。一般に,尿酸の再吸収は尿流量の低下や抗利尿ホルモンの作用によって亢進することが知られています。実際,腎前性腎不全でFEUA(fractional excretion of uric acid)低下がみられる(文献4)こと,ラットにおいて細胞外液量減少により尿細管での尿酸再吸収量が増加する(文献5)こと,低Na血症の鑑別においてSIADH(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)と中枢性塩類喪失症候群の比較で,後者でFEUA低下と血清尿酸高値がみられる(文献6)こと,などは体液量減少と腎排泄低下による高尿酸血症の関連を支持する証拠と考えられます。一般的にも,腎血流量が低下する病態では血清尿酸高値の傾向があると考えられています(文献7)。しかしながら,体液量減少に関する血清尿酸値の診断特性を直接調べた研究はありません。また,腎機能低下や利尿薬などの薬剤の影響など,体液量減少以外の原因でも尿酸値は変動しますので,やはり,解釈には注意が必要です。
以上からヘマトクリット値,尿酸値のいずれも,体液量減少の診断に関して一定の有用性は示唆されるものの,ある一時点での値から体液量減少の有無を診断するというよりは,過去の値との比較・推移の検討や,ほかの体液量の指標となる症状や所見(身体所見,体重や血圧などのバイタルサインの推移,心胸比,IVC径,BNP/hANP値,など)と併せて,総合的に判断するための一助とすべきと考えます。

【文献】


1) Leypoldt JK, et al:J Am Soc Nephrol. 1995;6(2):214-9.
2) Vaduganathan M, et al:Am J Med. 2014;127(12):1154-9.
3) Anzai N, et al:Nihon Yakurigaku Zasshi. 2010;136(6):316-20.
4) Kosmadakis G, et al:Am J Kidney Dis. 2009;54(6):1186-7.
5) Weinman EJ, et al:J Clin Invest. 1975;55(2):283-91.
6) Fenske W, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(8):2991-7.
7) Maesaka JK, et al:Am J Kidney Dis. 1998;32(6):917-33.

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