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鶏胸肉などに含まれるイミダペプチドが抗疲労効果を発現する機序は?

No.4773 (2015年10月17日発行) P.61

梶本修身 (大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座 特任教授/東京疲労・睡眠クリニック院長)

登録日: 2015-10-17

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

鶏の胸肉に多く含まれているイミダペプチドは,ヒトの疲労回復にどのように作用するのでしょうか。 (和歌山県 T)

【A】

エネルギー摂取が十分なわが国においては,健常者が経験する運動やデスクワーク,睡眠不足などによる疲労は,いずれも自律神経中枢の消耗が大きな要因になっています。たとえば,一般人が日常に運動する程度では筋肉の損傷もそれほど顕著ではなく,むしろ運動中の恒常性の維持のため呼吸,心拍,体温を調節する自律神経が最も疲弊していることがわかっています。ジョギングやゴルフ程度の運動疲労は,身体の疲労というより,自律神経中枢の消耗が主原因であると言っても過言ではありません。自律神経中枢の細胞が,恒常性を維持しようと活動する過程で酸素を大量消費し,同時に発生した活性酸素が自律神経中枢の細胞を錆びさせることが,疲労,すなわち作業効率の低下の大きな原因と考えられています。
イミダペプチドは,渡り鳥が長距離を飛び続けるメカニズムの研究から判明した抗疲労物質です。2003年に始まった「産官学連携疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」(研究予算総額16億円)で23種類の抗疲労効果が期待される物質について二重盲検法で試験を行ったところ,唯一,疲労の血液マーカー(TGF-βほか),尿中酸化ストレスマーカー,生理学的データ(パフォーマンス),そして疲労感のすべての疲労定量評価軸で,顕著な抗疲労効果が実証されたことで注目を集めました。
イミダペプチドは,もともと動物の体内で合成されるものです。合成酵素は,鳥類の場合は羽の付け根の胸肉に,また24時間泳ぎ続けるカツオやマグロの回遊魚では尾の付け根に豊富に含まれています。つまり,動物の種類ごとに,その消耗の最も激しい部位にイミダペプチド合成酵素が豊富に存在し,抗酸化力を発揮することがわかっています。そして,ヒトにおいては自律神経の中枢に豊富に存在することもわかっています。
ただ,in vitroでの抗酸化力に限って言えば,イミダペプチドは,ほかの抗酸化剤であるポリフェノール類ほどの強い活性はありません。では,なぜポリフェノールより抗疲労効果があるのか。その理由として,(1)脳内(自律神経の中枢)へ,アミノ酸の状態でスムーズに運ばれ,自律神経の中枢で合成され効果を発揮すること,(2)活性酸素を発生するたびに長時間にわたって抗酸化力を発揮し続けること,が考えられます。
イミダペプチドは,消化管に吸収された後,βアラニンとヒスチジンというアミノ酸に分解されます。このアミノ酸は,脳血管関門を容易に通過し,脳内自律神経中枢に豊富に存在するイミダペプチド合成酵素によって,再びイミダペプチドに合成され,そこで抗疲労効果を発現し続けます。つまり,最も疲れる脳の自律神経中枢で長時間にわたって産生され,その場で抗酸化力を発揮し続けるのです。
また,そもそも体内で発生した活性酸素が体内にとどまっている時間は(種類にもよりますが)ほんの数秒で,発生しては細胞を酸化させ消失することを繰り返しています。活性酸素は,脳を使っているときや運動をしているとき,常に産生されて消えているのです。つまり逆に言えば,抗疲労効果を発現するためには,仕事中ずっと抗酸化力を安定して維持し続けなくてはならないのです。ところが,たとえばポリフェノールの一種であるアントシアニンは2時間以内にほとんど代謝され,抗酸化力が失われます。それでは活性酸素を長時間にわたって抑えることができず,結局疲労を惹起してしまいます。
以上が,イミダペプチドとほかの抗酸化作用のある成分との違いであり,イミダペプチドが非常にシャープな抗疲労効果を発現する理由と考えられます。

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