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近視の遺伝性と進行予防法

No.4771 (2015年10月03日発行) P.65

根岸貴志 (順天堂大学医学部眼科准教授)

登録日: 2015-10-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

わが家は,私の父母も妻の父母も近視・乱視で,私も妻も視力が低い状態です。3歳の息子も,そのうち近視・乱視が出てくるのだろうと思います。以下について教えて下さい。
(1)視力の低下は遺伝性か。
(2)子どもの視力低下の予防法の有無。
(福岡県 S)

【A】

眼科学的に視力の低下とは,矯正視力が1.0未満となることです。裸眼視力がいくら低下しても,矯正視力が1.0あれば正常とみなされます。したがって,本稿では質問文の「視力の低下」を「近視の進行」に読み替えてご回答します。
(1)近視の原因
近視は,眼球の直径(眼軸長)に大きく依存し,眼軸長が成長とともに1mm長くなると約3D(ジオプター)近視側に屈折が変化します。これは成長による変化で,当然,遺伝因子と環境因子が相互に干渉しています。遺伝的にはアジア人で近視が多く,親が近視の場合にオッズ比が高くなります(文献1)。環境因子的には,近見作業が多い環境では近視になっていきやすく,農村部よりも都市部で近視が多く,高学歴の親の子どもは近視の割合が高くなります。これは環境適応現象で,塾や携帯ゲームやパソコンなどの影響と思われます。
(2)近視の予防法
近視が強度になると裂孔原性網膜剥離,加齢黄斑変性,黄斑円孔などが起きやすくなります(文献2)。そこで,少なくとも強度近視にならないよう,様々な進行抑制研究がなされています(文献3)。
まず,近見作業への環境適応を予防する目的で,眼鏡やコンタクトレンズによる光学的な方法が考えられました。近年では近視の進行に周辺部の遠視性デフォーカスが関与していると考えられており,軸外収差を抑える眼鏡(0.29D/年)やコンタクトレンズ(0.29D/年)に予防効果が期待されています。また,調節を薬理学的に阻害する方法として,調節麻痺薬であるアトロピン点眼液は,濃度1%で0.80D/年の抑制効果が報告されています。ただし,近見が難しくなる副作用のため眼鏡が不可欠です。副作用を起こしにくい低濃度でも効果がありますが(文献4),わが国では保険適用外の自由診療です。
環境因子の改善として,屋外活動の近視進行予防効果の報告があります(文献5)。ちなみにこれは,屋内スポーツは近視抑制効果がなく,近見作業が長くても十分屋外活動を行うと近視化しにくいという報告です。
上記をまとめると,近視の進行予防のためには眼鏡が必要で,点眼も効果がみられるものの,抑制効果は平均で3割程度であろう,という回答となります。
遺伝要因と環境要因の相互作用であることから,まずは携帯ゲームを減らし,お子さんを屋外レジャーに連れ出してみてはどうでしょうか。

【文献】


1) 不二門 尚:日眼会誌. 2013;117(4):397-406.
2) 大野京子:医事新報. 2010;4513:65-8.
3) Walline JJ, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2011;(12):CD004916.
4) Chia A, et al:Ophthalmology. 2012;119(2):347-54.
5) Rose KA, et al:Ophthalmology. 2008;115(8):1279-85.

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