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ワクチン副反応の責任に関する規定

No.4767 (2015年09月05日発行) P.68

小野塚大介 (九州大学大学院医学研究院基礎医学部門 医療コミュニケーション学分野)

萩原明人 (九州大学大学院医学研究院基礎医学部門 医療コミュニケーション学分野教授)

登録日: 2015-09-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

医療訴訟が非常に多い米国では,ワクチンの副反応による健康被害について,接種した医師に責任が生じない仕組みがあると聞きました。その実情について,わが国と比較してご教示下さい。 (宮城県 K)

【A】

予防接種は感染症を防ぐために重要なものですが,きわめて稀に予防接種の副反応による健康被害が報告されています。万が一,予防接種による健康被害が発生した場合は,米国およびわが国のいずれの国においても救済給付が行われるための制度が設けられており,予防接種にかかる損害賠償責任についても当該制度の中で規定されています。
(1)米国の制度
予防接種の副反応による健康被害が発生した場合の無過失補償および免責について,米国では2種類の制度が設けられています。
第一に,平常時における予防接種による健康被害に対する補償制度があります〔National Childhood Vaccine Injury Act(NCVIA)of 1986〕。この制度は,ワクチンに賦課された物品税を財源とした無過失補償制度であり,請求者が無過失補償を受けるか,もしくは訴訟を起こすかについて,自らの判断で選択できるようになっています。なお,この補償を受けた場合は,損害賠償請求訴訟を起こすことができないとされています。
第二に,公衆衛生上の緊急時における補償制度があります〔Public Readiness and Emergency Preparedness Act(PREP Act)of 2005〕。この制度では,米国保健福祉省(department of Health and Human Services:HHS)長官によって公衆衛生上の緊急事態であると宣言された場合,ワクチン等の処方,流通,製造を行う者や国に対して,当該製品の処方,使用等に関する不法行為を理由とするあらゆる損害賠償について免責されることになっています。なお,故意による不正行為により重大な身体障害や死亡を起こした場合は免責の対象外とされています。
(2)わが国の制度
わが国では,予防接種法に基づく予防接種(定期接種)により重篤な健康被害が発生した場合,その健康被害が予防接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣により認定されたときは,法令に基づき,接種した市町村により健康被害の救済が行われることになっています〔予防接種法(昭和23年法律第68号)第15条,予防接種法施行令(昭和23年政令第197号)第9条〕。
また,「予防接種法及び結核予防法の一部を改正する法律等の施行について」(平成6年8月25日健医発第961号厚生省保健医療局長通知)では,予防接種法に基づく予防接種による健康被害について賠償責任が生じた場合であっても,その責任は市町村,都道府県または国が負うものとされており,当該予防接種を行った医師は,故意または重大な過失がない限りにおいて,責任を問われるものではないとされています。
なお,予防接種法に基づく定期接種以外の予防接種(任意接種)については,薬事法上の承認を受けた医薬品が適正に使用されたにもかかわらず健康被害が生じた場合,独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済制度があります。

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