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経口ビタミン剤常用の影響

No.4750 (2015年05月09日発行) P.60

石神昭人 (東京都健康長寿医療センター研究所老化制御 研究チーム分子老化制御・研究部長)

登録日: 2015-05-09

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

経口ビタミン剤を常用することの是非についてご教示下さい。経口ビタミン剤は吸収率が良いため,常用することで,野菜などの食事で摂ったビタミンを吸収しなくなってしまうと聞いたことがありますが,実際はどうなのでしょうか。 (千葉県 K)

【A】

現在,ビタミンとして正式に認められているのは,水溶性ビタミン(ビタミンB1,B2,B6,B12,ナイアシン,パントテン酸,葉酸,ビオチン,ビタミンC)9種類と,脂溶性ビタミン(ビタミンA, D, E, K)4種類の合計13種類です。経口ビタミン剤には,これら13種類のうち1つまたは複数のビタミンが含まれています。これら13種類のビタミンは,それぞれ化学構造や物性,腸管からの吸収のされ方などが異なるため,すべてをひとくくりにして議論することはできません。ここでは水溶性ビタミンの1つであるビタミンCの吸収について説明します。
ビタミンCは,腸管上皮細胞の細胞膜にあるナトリウム依存性ビタミンC輸送体(sodium-dependent vitamin C transporter:SVCT)のSVCT1とSVCT2により細胞内に特異的に取り込まれます(文献1)。
20~30歳の健常な日本人男性に50mg,100mg,200mgのビタミンC水を飲んでもらい,その後6時間まで血液中へのビタミンCの移行量を詳しく調べた報告があります(文献2)。その結果,50mg,100
mg,200mgのビタミンC水を飲んだ後,血液中のビタミンC濃度は増加し,およそ1.5~2.5時間でピークに達しました。100mgのビタミンC水を飲んだ場合,50mgのビタミンC水を飲んだときと比べ,およそ2倍血液中のビタミンC濃度が増加しました。しかし,200mgのビタミンC水を飲んだときには,100mgのビタミンC水を飲んだときと比べ,2倍の血液中ビタミンC濃度の増加にはなりませんでした。これは,ビタミンCを一度に多く摂っても,その量に比例して吸収されることはないことを示しています。
ビタミンCに関しては,経口ビタミン剤でも野菜などの食物からでも腸管からのビタミンC吸収率にあまり変わりはないと考えられています。
一般に「経口ビタミン剤は吸収率が良い」という科学的な知見はないと思います。ビタミンCの場合,経口ビタミン剤と野菜などのビタミンCを含む食物を一度に多く摂取すれば,前述のように吸収率が悪くなります。それぞれ単独で少量のビタミンCを摂取した場合,または両方を合わせても少量の場合には,吸収率は悪くならないと考えられます。したがって,「経口ビタミン剤を常用することにより,野菜などの食事で摂ったビタミンを吸収しなくなってしまう」ということはないと考えられます。

【文献】


1) Tsukaguchi H, et al:Nature. 1999;399(6731):70-5.
2) Uchida E, et al:Biol Pharm Bull. 2011;34(11):1744-7.

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