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アルバイト医師の死亡診断書作成の可否

No.4746 (2015年04月11日発行) P.62

畔柳達雄 (兼子・岩松法律事務所 弁護士)

登録日: 2015-04-11

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

有床診療所(5床)で,夜間に患者が死亡したとき,夜間当直を担当するアルバイト医師が死亡を確認した場合の死亡診断書の作成についてご教示下さい。
(1) 死亡診断書はそのアルバイト医師がすぐに書かなければならないのでしょうか。
(2) 翌日,昼間の診療時間中に患者を診療する診療所担当医が死亡再確認後,死亡診断書を作成してもよいのでしょうか。
(3) 当直医が死亡診断書を作成しやすいよう,死亡診断書の原案をつくっておき,それにしたがってアルバイト医師が死亡確認後に作成するという方法はいかがでしょうか。(愛知県 K)

【A】

本問では「夜間当直を担当するアルバイト医師」(以下,アルバイト医師)と「昼間の診療時間中に患者を診療する診療所担当医」(以下,診療所担当医)とが登場します。本問の趣旨は,死亡した患者は有床診療所に入院中であり,診療所担当医は患者をアルバイト医師にゆだねるに先立ち,死亡前の日常診療時間中に当該患者を診療したことを前提にすると考えます。その場合には,死亡した患者に関して,死亡診断書を作成交付できる医師は,アルバイト医師と診療所担当医の2名存在します。アルバイト医師は医師法第19条第2項に該当し,診療所担当医は医師法第20条ただし書に該当する医師であるからです(注)。
医師法は死亡診断書交付につき先後関係・優先順位を定めていないので,アルバイト医師,診療所担当医いずれもが,死亡診断書を作成交付可能であり,それぞれが患者遺族に対して死亡診断書作成交付義務を負っています。
質問の内容構成から,質問者は,診療所担当医が第一次的に死亡診断書を作成交付することが相当と考えていると思われます。アルバイト医師といっても,1回限りの就業もあれば,常雇いに近いものもあります。前者に近いものは,ほとんど患者の過去の状況を知らないこと,診療所事務部門との接触も少ないこと,アルバイト終了後,容易に連絡がとれる保証がないことなどの諸事情を勘案すると,診療所担当医を死亡診断書の第一次作成交付者とすることには十分意味があると考えられます。
以上述べたことを前提に,3つの質問に回答します。
(1)(2)の質問は,アルバイト医師が死亡診断書の早期作成交付を求められた場合,拒否できるかという問題とも関連しますが,アルバイト医師は,夜間勤務時間中の作成要求に直ちに応じなくても差し支えないと考えられます。アルバイト医師の本来業務は,入院患者の夜間の管理・診療であり,アルバイト医師はその業務遂行に専念する義務を負っているからです。したがって,アルバイト医師に勤務明けまで待ってもらい,あるいは翌朝出勤する診療所担当医に死亡診断書の作成交付をゆだねるとする対応が,非常識であるとは思えません。もっとも,死亡した翌日の午前中,可能であれば10時頃までには,いずれかの医師が作成した死亡診断書を交付することが望ましいでしょう。
なお,混乱を避けるために,それぞれの医療機関で,第一次作成交付者は主治医(診療所担当医)と定めるなど,診断書,証明書発行に関するルールを定めて,全関係者に周知させておくのも一策です。
(3)の質問は,死亡診断書原案をあらかじめ作成するという妙案についてです。患者が生存しているのに,その死を前提とする原案づくりが,はたして医師の倫理から見て相当かという問題があります。それよりはむしろ,診療録に,患者入院後の診療経過の情報を,正確かつ詳細に記載しておくことをお勧めします。それが完備していれば,アルバイト医師などがこれを参照して,厚生労働省「平成27年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」が求める正確な死亡診断書を完成できるからです。

(注)平成24年8月31日厚生労働省医政局医事課長通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」では,「医師法第20条ただし書は,診療中の患者が診察後24時間以内に当該診療に関連した傷病で死亡した場合には,改めて診察をすることなく死亡診断書を交付し得ることを認めるものである。このため,『医師が死亡の際に立ち会っておらず,生前の診察後24時間を経過した場合であっても,死亡後改めて診察を行い,生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には,死亡診断書を交付することができる』こと」との行政解釈を示している(同趣旨の昭和24年4月14日厚生省医務局長通知を再確認し敷衍したもの)。二重括弧(『 』)部分の記載(括弧は筆者)によれば,前回診察後24時間以上経過後であっても,診療所担当医が改めて死亡後の診察をして,上記条件を備えていると判断すれば,死亡診断書を交付できる。

【参考】

▼ 厚生労働省:平成27年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル.
[http://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/]
▼ 畔柳達雄:医療の法律相談. 畔柳達雄, 他, 編. 有斐閣, 2008, p50,p53以下.

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