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一過性脳虚血発作患者に対する中大脳動脈浅側頭動脈バイパス術施行の効果・予後と対応

No.4733 (2015年01月10日発行) P.59

大里俊明 (中村記念病院脳神経外科・副院長)

登録日: 2015-01-10

最終更新日: 2021-01-06

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【Q】

67歳,女性。左中大脳動脈狭窄症(脳血管造影検査:M1領域に50%の狭窄,スペクト検査:StageⅡの血流低下,を認める)による一過性脳虚血発作(TIA)を生じた。今後の脳梗塞予防について,以下を。
(1)中大脳動脈-浅側頭動脈バイパス術施行の効果と予後について,現在の成績。
(2)M1領域における,血管内治療のメリット・デメリット。
(3)経過観察の間隔と必要な検査。
なお,降圧薬,スタチン系製剤,プラビックスを服用中。
肥満(-),糖尿病(-)。
家族歴:父親が上腸間膜動脈血栓症(60歳),心筋梗塞(78歳)に罹患後,脳梗塞(84歳)で死亡。叔父が心筋梗塞に罹患(60歳)。 (新潟県 S)

【A】

[1]中大脳動脈─浅側頭動脈バイパス術施行の効果・予後
1998~2002年に206例が登録して行われた日本初の外科治療エビデンスであるJET(Japanese EC-IC Bypass Trial)Studyでは,内頸動脈系の閉塞性脳血管病変によるTIAまたは完成卒中を3カ月以内に認めた症例において外科手術の有効性が認められた(文献1,2)。
inclusion criteriaとしては,臨床的に(1)73歳以下,(2)activities of daily living(ADL)が自立している(rankin disability scale 1あるいは2)こと。そして,放射線学的に(1)CTないしはMRIにて一血管支配領域にわたる広範な脳梗塞巣を認めない,(2)血管撮影上,内頸動脈,中大脳動脈本幹の閉塞あるいは高度狭窄(CEAの対象となる内頸動脈狭窄を除く)がある。また,脳血流的に定量的脳血流測定法(PET,SPECT,cold Xe CT)にて病側中大脳動脈灌流域の安静時血流量が正常値の80%未満かつアセタゾラミド反応性(血管拡張能)が10%未満である(文献1,2),とされている。これが血行力学的脳虚血分類StageⅡである。
つまり,病側の末梢血管を拡張させて血液量で補うところを,広げきっても補いきれない症例においてバイパス術が有用であったと言える。しかし,その後,2011年に米国からCOSS(Carotid Occlusion Surgery Study)Trialが発表され,逆にバイパス術の有用性は否定された(文献3)。ただし,JET Studyに比してCOSS Trialでの周術期合併率は高く,これが結果に影響したとも言われており,検証がなされつつある。
[2]M1領域における血管内治療のメリット・デメリット
血管内治療については,Wingspan Stent Systemを,頭蓋内動脈狭窄症に対するバルーン拡張式血管形成術用カテーテルを用いた経皮的血管形成術において,血管形成術時に生じた血管解離,急性閉塞または切迫閉塞に対する緊急処置,またはほかに有効な治療法がないと判断される血管形成術後の再治療を対象に使用する適正使用基準を策定することになっている。
血管内治療は,現在単一施設での報告は散見されるが,多施設共同研究はなされていないので,その有用性は確立されていない。
[3]経過観察の間隔と必要な検査
保存的に経過観察する場合は,3~6カ月ごとに頭部MRIにて新規脳梗塞出現の有無を確認する。また,TIA後の脳梗塞リスクの評価には以下のようなABCD2スコアが提唱されている(文献4)。
A:age(60歳以上,1点),B:blood pressure(140/90mmHg以上,1点),C:clinical feature(構語障害,1点/片麻痺,2点),D:duration(10~59分,1点/60分以上,2点),D:diabetes(1点),として加算される。
7点満点のスコアで,最初の受診より2日以内に脳卒中を起こすリスクは,スコア0~3の患者は1.0%,4~5の患者は4.1%,6~7の患者は8.1%と言われている。4点以上はきわめてリスクが高く,抗血小板薬を中心とした治療が重要となる。

【文献】


1) JET Study Group:脳卒中の外. 2002;30(2):97-100.
2) JET Study Group:脳卒中の外. 2002;30(6):434-7.
3) Powers WJ, et al:JAMA. 2011;306(18):1983-92.
4) Johnston SC, et al:Lancet. 2007;369(9558): 283-92.

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