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クレアチニン値が正常な腎胞患者への対応

No.4702 (2014年06月07日発行) P.66

猪阪善隆 (大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学腎臓内科科長)

登録日: 2014-06-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

66歳,女性。高血圧の治療中。腹壁より腫瘤を触れ,エコー,CTで多発の腎嚢胞を認めた。正常の腎組織が見えない状態である。クレアチニン値は正常で,腎臓専門医より家族性(遺伝性)の多発腎嚢胞とは異なると説明を受け,このまま経過を見てよいと言われている。しかし,泌尿器科では切除や嚢胞内容を吸引するとも言われた。今後の対応法について。 (熊本県 U)

【A】

質問内容からは,なぜ「遺伝性の多発腎嚢胞とは異なる」と診断されたのかが不明である。
常染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)は,両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し,腎臓以外の種々の臓器にも障害が生じる最も発症頻度の高い遺伝性腎疾患である(文献1)。加齢とともに嚢胞が両腎に増加し,腎臓が腫大し,進行性に腎機能が低下するために,70歳までに約半数が末期腎不全に至るとされる。しかし,診断時に家族歴を認めない場合が約1/4にみられており,家族歴がないからといって,ADPKDが除外できるわけではなく,腎機能低下速度も個人差がある。
家族性発生が確認されていない場合の診断基準は,16歳以上では,CT・MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され,多発性単純性腎嚢胞,尿細管性アシドーシス,多嚢胞性異形成腎,多房性腎嚢胞,若年性ネフロン癆,多嚢胞化萎縮腎,常染色体劣性多発性嚢胞腎が除外される場合とされる(文献1)。
多発性単純性腎嚢胞は,一般的に嚢胞の数は少なく,腎臓の大きさも正常である。胎生期の腎臓発生の異常によって起こる多嚢胞性異形成腎は通常片側性であり,多房性腎嚢胞も通常片側性である。多嚢胞化萎縮腎は末期腎不全による萎縮した腎臓に嚢胞が出現するものである。若年性ネフロン癆は,腎髄質に嚢胞形成を認める遺伝性疾患であり,小児から若年成人のうちに腎不全に至る。したがって,腫大した腎臓とエコー所見からは,ADPKDが疑わしく,再度腎臓専門医による診断をお勧めしたい。
ADPKDでは,脳動脈瘤,心臓弁膜症,大腸憩室や多臓器の嚢胞形成などの合併症の頻度も高く(文献1) ,精査が必要である。最近,ADPKDに対して,トルバプタンが腎臓の腫大や腎機能低下を抑制することが明らかとなり(文献2) ,保険適用となった。透析導入となり,尿量も少ない場合には,嚢胞縮小を目的として腎動脈塞栓術が行われることがあるが,腎臓の嚢胞に対する切除や嚢胞内容の吸引は通常行われない。

【文献】


1) 乳原善文,他:日腎会誌. 2011;53(4):556-83.
2) Torres VE, et al: N Engl J Med. 2012;367(25): 2407-18.

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