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うつ病患者の精神障害者保健福祉手帳保持

No.4697 (2014年05月03日発行) P.70

斉藤 豊 (弁護士)

登録日: 2014-05-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

うつ病患者で障害者手帳を保持している人がいるが,うつ病患者で障害者と認定されるのはどのような場合か。 (三重県 I)

【A】

精神障害者に対する福祉施策と 精神障害者保健福祉手帳制度
質問にある「障害者手帳」の正式名称は,「精神障害者保健福祉手帳」である。
1993(平成5)年に成立した障害者基本法は,身体障害者,知的障害者とともに精神障害者を基本法の対象として明記した。1995(平成7)年の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下「精神保健福祉法」)は,従来,予防,医療およびリハビリテーションを含む保険医療の対象者としてのみとらえられていた精神障害者についても,社会復帰や,自立と社会参加を促進するための援助として福祉施策の対象者とすべきとする考え方を明示した。そして,この考え方に基づき,精神保健福祉法に精神障害者保健福祉手帳制度やそのほかの制度(相談指導,社会復帰施設および事業に関する制度など)に関する規定が設けられた。
「精神障害者保健福祉手帳」は,従来の身体障害者に対する「身体障害者手帳」,知的障害者に対する「療育手帳」の制度がこれら障害者に対する様々な福祉的配慮を行っていることに鑑み,精神保健福祉法第45条に基づき創設された制度で,一定の精神状態にあることを証明する手段を提供することにより,手帳の交付を受けた者に対し,各方面の協力で各種の支援策が講じられることを促進し,精神障害者の社会復帰や,自立と社会参加の促進を図ることを目的とするものである。
手帳の対象者と障害の等級
「精神障害者保健福祉手帳」は,精神保健福祉法第5条に定義される精神障害者のうち,精神障害のため長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある者を対象とし,統合失調症,そううつ病〔気分(感情)障害〕,非定型精神病,てんかん,中毒精神病,器質精神病,そのほかの精神疾患のすべてが対象となるが,知的障害については,療育手帳制度があるため対象にはならない。
対象者は障害の程度に応じて重度のものを1級として3級まで3段階ある障害等級に区分される。各等級の障害の状態は,以下の通りである。
1級=精神障害であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級=精神障害であって,日常生活が著しい制限を受けるか,または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級=精神障害であって,日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか,または日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの
障害等級の具体的認定基準
「精神障害者保健福祉手帳」の交付主体は,都道府県知事または政令指定都市市長であり,判定業務は,各地域の精神保健福祉センターが申請時に提出された診断書により行う。
障害等級の判定については,厚生省(現厚生労働省)保健医療局長通知が詳細な基準を定めている。障害等級の判定は,(1)精神疾患の存在の確認,(2)精神疾患(機能障害)の状態の確認,(3)能力障害(活動制限)の状態の確認,(4)精神障害の程度の総合判定という順を追って行われる。
「精神疾患(機能障害)の状態」は,(1)統合失調症,(2)気分(感情)障害,(3)非定型精神病,(4)てんかん,(5)中毒精神病,(6)器質性精神障害,(7)発達障害,(8)その他の精神疾患のそれぞれについて障害等級に応じた精神疾患(機能障害)の状態に関する基準が示されているが,「能力障害(活動制限)の状態」は,精神疾患の区別なく,等級ごとに8項目の共通な基準が示され,そのうちのいくつかに該当することが判定の要件とされている。
そううつ病患者に関する基準
上記の厚生省通知によると,そううつ病は,ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回改正)で「気分(感情)障害」と呼ばれるもので,気分および感情の変動によって特徴づけられる疾患と定義されている。主な病相期がそう状態のみであるものをそう病,うつ状態のみであるものをうつ病,これら2つの病相期を持つものをそううつ病という。
気分(感情)障害の精神疾患を有する者については,精神疾患(機能障害)の状態が,「高度の気分,意欲・行動及び思考の障害の病相期があり,かつ,これらが持続したり,ひんぱんに繰り返したりするもの」が1級の対象となり,「気分,意欲・行動及び思考の障害の病相期があり,かつ,これらが持続したり,ひんぱんに繰り返したりするもの」が2級の対象となり,「気分,意欲・行動及び思考の障害の病相期があり,その症状は著しくはないが,これを持続したり,ひんぱんに繰り返すもの」が3級の対象となるとされている。精神疾患(機能障害)の状態がこのいずれかに該当し,かつ,能力障害(活動障害)の状態に関する日常および社会生活における自立能力の程度に関する指標のいずれかに該当するかによって,等級は総合的に判定される。
診断の内容
精神障害等級の判定のための情報は,「精神保健指定医その他精神障害の診断又は治療に従事する医師によるもので,初診日から6か月以上経過した時点の診断書から得るもの」とされている。
診断書の記載項目は,以下の7項目である。
ア 精神疾患の病名
イ 初診年月日
ウ 発病から現在までの病歴および治療の経過,内容,就学・就労状況等,社会復帰施設,グループホーム,作業所等の利用状況,期間,その他参考となる事項
エ 治療歴
オ 疾患(機能障害)の状態
カ 生活能力の状態(現在の生活環境,日常生活能力の判定,日常生活能力の程度)
キ 備考
手帳に基づく支援策
障害の等級や発行自治体によって異なるが,共通する項目としては,以下の福祉施策が実施されている。
(1)自立支援医療費給付手続きの簡素化
(2)所得税,住民税,相続税等の控除,贈与税,預金利子所得等への非課税,個人事業税,自動車税等の一部減免等の税制優遇措置
(3)生活保護の障害者加算の認定(1級および2級のみ)
(4)公共交通機関の運賃割引や各種施設の利用料割引
なお,2006(平成18)年の障害者自立支援法施行に伴い,精神障害者保健福祉手帳所持者については,法定雇用率の対象とされるようになり,雇用面での自立の道の拡大が図られた。

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