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早産予防における黄体ホルモン療法の動向【17-OHPCが第一選択の予防治療】

No.4801 (2016年04月30日発行) P.61

中井章人 (日本医科大学多摩永山病院女性診療科・産科 部長/副院長)

登録日: 2016-04-30

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

プロゲステロンの早産予防機序には,頸管熟化抑制作用,子宮収縮抑制作用,抗炎症作用が報告されています。プロゲステロンの早産予防効果は,2003年に2つのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)によって報告されました。その後,妊娠中期の頸管長短縮症例に対する,経腟的プロゲステロン投与は多くの研究で有効性が報告され,自然早産の重要な治療戦略のひとつと考えられるようになっています。しかしわが国では,早産予防または切迫流・早産治療を目的とした腟坐薬として認可されたプロゲステロン製剤は存在せず,エビデンスレベルの高いRCTも報告されていません。わが国でも早産予防は重要であり,黄体ホルモン療法の有用性が期待されます。わが国での実態も含め,早産予防における黄体ホルモン療法の動向について,日本医科大学多摩永山病院・中井章人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
大槻克文:昭和大学江東豊洲病院周産期センター長

【A】

わが国の早産率は諸外国に比較し低率です。その理由のひとつとして,ほぼ全例で行われる定期的な妊婦健康診査と長期の入院管理を許容する独自の医療システムが指摘されています。諸外国では短期的な治療や外来治療が中心となり,長期入院が標準的に行われることはありません。しかしその反面,ハイリスク妊婦への意識とその管理の重要性が,わが国以上に認識されてきました。
早産には様々なリスク因子が知られています。中でも,早産の既往歴と超音波検査による頸管の短縮は特にハイリスクになります。黄体ホルモン療法は,こうしたハイリスクに対する予防治療として,多くのRCTとmeta-analysisで効果が示されています。報告によれば,早産既往歴に対しては,わが国でも保険適用となる17-α-hydroxyprogesterone caproate(17-OHPC)が第一選択の予防治療となり,妊娠16週以降,週1回,250mgの筋肉内注射が推奨されています。一方,頸管短縮例には天然型プロゲステロン腟錠200mgの連日投与が効果的とされています。
いくつかの国内施設の単独データでも,ハイリスク妊婦に17-OHPCを投与することで,早産率は有意に減少することが報告されています。しかし,それらを明確に証明するRCTや多施設研究はありません。また,17-OHPCを週1回,125mg使用することは保険適用となりますが,天然型プロゲステロン腟錠はこれまで未承認薬で使用できませんでした。
しかし2016年1月,不妊症領域で天然型プロゲステロン腟錠が承認薬となり,現在,日本早産予防研究会ではプロゲステロン腟坐薬の有効性に関する多施設共同・プラセボ対照・二重盲検・ランダム化並行群間比較試験が開始されています。この研究は頸管短縮例に対する予防治療の確立をめざすもので,わが国の周産期領域では数少ない本格的な前向き研究です。
今後,これらの成果をもとに,わが国の早産管理に新たな戦略が加わり,さらなる予後の改善につながることが期待されています。

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