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小児鼠径ヘルニア根治術LPEC法の長期的な功罪【LPEC法の合併症は稀だが,長期成績の検証は必須】

No.4799 (2016年04月16日発行) P.55

石橋広樹 (徳島大学病院小児外科・小児内視鏡外科教授)

登録日: 2016-04-16

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

小児鼠径ヘルニア根治術として,徳島大学で考案された腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖(laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure:LPEC)法が一般的な手術方法として確立されています。従来法と比べ開腹操作の有無など,まったく異なる手技で行われていることもあり,手術合併症についての報告はされていますが,長期における術式の功罪については,十分な考察がなされていないと思われます。
泌尿器科医師から従来の根治術により精管周囲の剥離操作によって精管萎縮を呈し不妊の原因になっている症例が相当数あると報告されており,剥離範囲がわずかなLPEC法の功の側面と考えます。一方,学会における討論では婦人科医師から腹膜鞘状突起内の子宮内膜症を考慮するとヘルニア門を結紮閉鎖するのみで腹膜部分を切除しないLPEC法はすべきではないとする意見があり,罪の側面とも考えられます。
LPEC法の長期の功罪について,徳島大学・石橋広樹先生のご教示をお願いします。
【質問者】
佐々木 潔:高知医療センター小児外科科長

【A】

小児鼠径ヘルニアに対するLPEC法は,1995年に当科前任の嵩原裕夫先生が開発したまったく新しいコンセプトの術式であり,開発以来21年が経過しました。私も初期から関わってきましたが,当初は使用器具を含め試行錯誤の連続でした。手技が安定してから,その手術法や術後成績などを報告しましたが,最初は内鼠径輪を縫合閉鎖した際の精管・精巣血管障害への懸念から,女児のみに施行する施設が多く,全国的な普及には至りませんでした。その後LPEC法は,整容性ばかりでなく,経鼠径管法(Potts法など)に比べ精管・精巣血管の剥離範囲が少ないことや,術後の対側ヘルニア発症を予防できる可能性があることなどの利点が理解されるようになり,さらに短期・中期の術後成績も経鼠径管法に比べ遜色ないことが報告されるに至り,今日では多くの小児外科専門施設において標準術式のひとつとして広く行われるようになりました。
さてLPEC法の最後に残された問題として,ご指摘の長期成績があります。日本内視鏡外科学会の診療ガイドラインでも,これだけ全国的に施行されているのに積極的な推奨ができない理由として,LPEC法の長期的な検証がなされていない点が指摘されています。
これに関しては,当科でも長期的な検討をしておらず,文献的にも報告がないので,私見を述べます。長期的な問題として,男児で,術後の精巣機能とりわけ男性不妊の問題があります。小児経鼠径管法術後の精管閉塞が高率であることが報告されていますが,原因は手術手技や剥離操作に伴う血流障害などが推測されています。LPEC法では,ヘルニア嚢の遠位側の剥離操作がなく,精管および精巣血管の剥離範囲も少なく,精管閉塞をきたす可能性は低いと考えます。
また,女児の経鼠径管法に起因する卵管閉塞(滑脱症例での結紮)も報告されていますが,これもLPEC法では,卵管滑脱ヘルニアに対して卵管を腹腔側に牽引しながら高位結紮が容易に行え,腹腔内から観察しながら結紮するため,卵管の切断・結紮という合併症はまずないと考えます。
成人でヌック管水瘤に子宮内膜症や悪性腫瘍を合併したという報告はありますが,それぞれわが国で6例と1例の報告であり,頻度的にはきわめて稀と考えます。このことから成人例では子宮円索の完全切除を推奨していますが,小児期の鼠径ヘルニアやヌック管水瘤の術後に発生したという報告はなく,侵襲の面からも,小児期の手術に際して子宮円索の完全切除は必ずしも必要なく,LPEC法を否定する理由にはならないと考えます。
いずれにしても,今後LPEC法の長期成績の検証は必須であり,21年が経過し,成人に達した症例も増えてきており,この手技を開発した当科としては,アンケート調査などでLPEC法術後の長期的な合併症の有無を調査したいと考えています。

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