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視床下部過誤腫の治療法選択

No.4777 (2015年11月14日発行) P.60

亀山茂樹 (国立病院機構西新潟中央病院名誉院長)

登録日: 2015-11-14

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

視床下部過誤腫はきわめて稀な疾患であり,脳神経外科医といえども,治療法に関する理解が不足がちな疾患だと思います。患者さんによっては,てんかん発作の種類も様々であり,思春期早発の有無も異なります。発生部位,大きさ,進展具合によっても,外科的アプローチは違ってくるのではないでしょうか。視床下部過誤腫の治療法選択に関して,国立病院機構西新潟中央病院・亀山茂樹先生に,豊富な自験例をもとにした治療のコンセプトのご解説をお願いします。
【質問者】
中里信和:東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野 教授

【A】

視床下部過誤腫は,有病率が20万人に1人と,きわめて稀な疾患であり,脳神経外科医さえ1例でも経験する可能性は低い疾患です。しかし,笑い発作という特殊なてんかん発作を発症し,難治であるとともに,ほかの種類のてんかん発作を90%で合併し,思春期早発症,精神発達障害や行動異常などのてんかん性脳症を約半数で合併して悲惨な経過をたどる小児例も少なくありません。先天性の脳奇形の一種であり,1歳未満で笑い発作を発症する例が多くみられます。
過誤腫の大きさは5mm~8cm(中央値:15mm)と様々です。大きい例では発症年齢が早く,思春期早発症やてんかん性脳症を合併しやすいことが知られています。笑い発作が視床下部過誤腫から起始することが明らかになり,発作を抑制するためには過誤腫自体の外科治療が不可欠とされるようになりましたが,脳の最深部に存在するため手術アプローチ自体が困難であり,視床下部に連続するために手術合併症が多い欠点や発作転帰不良の問題がありました。これに対して,筆者らは定位温熱凝固術を考案し,ほかの術式に比して低侵襲で笑い発作の消失率が約90%と良好なことを報告しました。発作時SPECTの解析により,正常な視床下部との付着部に近いところが発作起始部であることが明らかになり,この術式では過誤腫の凝固による視床下部との離断が全摘出より優位であるという理論的根拠になりました。
術式はシンプルで,MRIガイド下の定位脳手術で凝固電極を過誤腫内に留置し,1分間74℃の加温で直径5mmの球状の凝固ができます。過誤腫の大きさや付着の形状によってMRIでターゲットを決定し,凝固電極刺入経路や凝固数を決めています。過誤腫の中に串団子を何本も作製し,でき上がりはぶどうの房のようなイメージです。2歳前後から手術可能で,術前の合併症の有無,過誤腫自体の大きさや形状などにかかわらず,すべての視床下部過誤腫に適応できる唯一の術式です。
当院では,国内外の患者139例に対し187回の手術を行いましたが,重大な合併症は認めていません。笑い発作が消失すると,発達障害や行動異常が速やかに改善します。有意な知的改善も認められます。思春期早発症への治療効果を認めず,術後に遅発性思春期早発症が出現する例も約10%ありますが,ホルモン療法が確立しています。この治療法は過誤腫の全摘出をめざす術式ではなく,視床下部にてんかん波が伝播できないようにする術式です。一方,成人例でほかのてんかん発作を合併していると笑い発作が消失してもその発作が残存しやすく,この発作は二次性てんかん原性によるものと解釈されています。このことからも,小児期の早い時期での手術が勧められます。

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