株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

重症患者に対する経腸栄養

No.4761 (2015年07月25日発行) P.60

西田 修 (藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学 講座主任教授/集中治療部部長)

登録日: 2015-07-25

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

栄養管理は重症患者の治療に必須です。早期から開始すべきと言われますが,敗血症性ショック患者では腸管の機能も十分ではなく,投与した栄養の吸収が不十分なことも多々あります。無理な投与は誤嚥や下痢などの合併症を発症させ,投与すべき栄養の内容,特に蛋白質に関してはESPEN(European Society for Parenteral and Enteral Nutrition)とASPEN(Amer-ican Society for Parenteral and Enteral Nutrition)で推奨量が異なっています。藤田保健衛生大学・西田 修先生は経腸栄養(enteral nutrition:EN)を開始する際に,どのようなタイミングでどのような種類のENを行われるのでしょうか,ご教示下さい。
【質問者】
西村匡司:徳島大学大学院救急集中治療医学教授

【A】

敗血症性ショックなどの循環が不安定な時期では,非閉塞性腸管虚血を発症するリスクがあるとされ,ASPENガイドラインでは循環動態が安定するまではEN開始を避けることを推奨しています。しかし,これには無作為化比較対照試験などの確固たるエビデンスがあるわけではありません。虚血性腸炎を発症した症例のうちの6割はカテコラミンを使用しておらず,血圧も正常であったという報告(文献1)もあります。さらに,カテコラミン使用中であっても,ENが有用とする報告も多く存在します(文献2~4)。
私たちは,敗血症性ショックの症例が集中治療室に入室してきた時点で,輸液を中心とした初期蘇生を行いながら,気管挿管,中心静脈路確保に引き続き,一連の流れでENカテーテル先端を空腸まで挿入します。ENカテーテルの位置確認のため造影剤を投与し,この造影剤が翌日朝の写真で移動していることを確認します。ほとんどの症例において小腸以遠の腸管蠕動がみられます。造影剤の移動がみられたら,循環が安定するまでは5%グルコース液を10~20mL/時で開始することが多いです。高浸透圧や食物繊維が豊富な栄養剤は虚血のリスクを上昇させる可能性があるからです。
空腸にENカテーテルの先端を留置する理由は大きく2つあります。1つは,侵襲早期には胃では蠕動が止まっていても小腸レベルでは蠕動がみられることが多く,吸収される可能性が高いことが挙げられます。もう1つは,同じ理由で小腸留置のほうが胃留置よりも誤嚥の可能性が低いことが挙げられます。
さらに,私たち独自の調査で,十二指腸留置よりも,トライツ靱帯を越えて留置する空腸留置のほうが逆流の可能性が低いことがわかっています。空腸まで留置することにより,各種処置時や腹臥位療法などにおいてもENを中断する必要がありません。手技的には,慣れればそれほど時間はかからず行えます。私たちは,主に内視鏡を用いた留置で行っています。
侵襲早期の投与カロリーについては議論がありますが,おおむね1週間以内は消費エネルギー量すべてを与える必要はないことが示されつつあります(文献5,6)。また,侵襲時の至適蛋白投与量については根拠が乏しく,重症期に1.2~2.0g/(実測体重)kg/日の蛋白が喪失しているという生理的根拠に依っているため,ガイドラインによる相違が生じています。
私たちは,循環が安定してくれば,ホエイペプチドの多く含まれたENの少量持続投与から開始します。理論的に,アミノ酸トランスポートよりもペプチドトランスポートのほうが吸収が速く,これは侵襲時には顕著にみられます。また,通常のEN製剤は平常時に所要カロリーを摂取した場合に,1.0g/(実測体重)kg/日前後の蛋白摂取となるように組成調整されており,重症期には蛋白量が消費量を満たしません。
私たちのスタンスとしては,蛋白に関しては,蛋白含有量の多いEN製剤もしくは経静脈的にアミノ酸を追加しながら,侵襲早期の1週間程度で1.5g/(実測体重)kg/日前後を到達目標とし,投与カロリーは血糖値を見ながら比較的ゆっくりと増加させ,目標カロリー到達は1週間目以降の10日目前後としています。

【文献】


1) Marvin RG, et al:Am J Surg. 2000;179(1):7-12.
2) Khalid I, et al:Am J Crit Care. 2010;19(3):261-8.
3) Mancl EE, et al:JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2013;37(5):641-51.
4) Rai SS, et al:Crit Care Resusc. 2010;12(3):177-81.
5) Arabi YM, et al:Am J Clin Nutr. 2011;93(3):569-77.
6) Rice TW, et al:JAMA. 2012;307(8):795-803.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top