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open abdomenの管理

No.4757 (2015年06月27日発行) P.59

久志本成樹 (東北大学大学院医学系研究科 救急医学分野教授)

登録日: 2015-06-27

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

外傷患者に対する救急診療の現場では,近年,救命を最優先する治療戦略としてdamage control surgeryが脚光を浴びています。これを採用すると,腹部では腹腔内圧亢進を回避するためにopen abdomenとしての創管理を余儀なくされます。しかし,一次被覆や段階的な閉腹方法を工夫しないと,腸管の二次損傷や腹壁瘢痕ヘルニアの合併が必発です。
そこで,合併症回避や罹病期間短縮のためにどのような工夫をされているのでしょうか。経験豊富な東北大学・久志本成樹先生にお尋ねします。
【質問者】
横田順一朗:市立堺病院副院長

【A】

damage control surgeryにおける再開腹を前提とした一時的閉腹やabdominal compartment syndromeに対する減圧のための開腹施行例では,早期に定型的筋膜閉鎖による閉腹が可能であるとは限らず,比較的長期にわたる腹部手術創の開放管理(open abdominal management)という大きな問題が生じます。開放管理が長期に及んだ場合には,腹壁の筋・筋膜は側方に偏位・退縮するので,腹腔内容の浮腫が軽減し,通常ならば定型的閉腹が可能である腹腔・後腹膜の状態となっても,定型的筋膜閉鎖による閉腹は困難となり,大きな腹壁欠損を生じることになります。
一時的閉腹法の目的としては,(1)消化管の保護・収納と腹腔内外のバリア形成,(2)腹腔からの体液喪失のコントロール,(3)止血のためのパッキング部位への適切な圧の維持,(4)定型的閉腹のための腹壁状態維持,などが挙げられ,皮膚のみの縫合閉鎖,towel clip closure,silo closure,Wittman patch,vacuum pack closure(Vacuum Assisted Closure),非吸収性あるいは吸収性メッシュによる閉鎖などが報告されてきました。
open abdominal managementにおいては,可能な限り早い段階で定型的筋膜閉鎖による閉腹を行うことが理想です。しかし,短期間の開放管理で定型的閉腹が不能な症例の管理では,(1)いかに筋膜閉鎖を行いうる腹部の環境をつくることができるか(長期間に及ぶopen abdomenでも筋膜閉鎖を可能とすることができるか),(2)開放管理中のenterocutaneous fistula(腸瘻)の発生を防ぎうるか,の2つがポイントとなります。最も避けたい合併症であるenterocutaneous fistula発生の最大のリスク因子は,早期閉腹が不能であることですので,enterocutaneous fistula合併率が低く,早期閉腹を可能とする方法を選択することとなります。
これまでの報告と自験例をみると,vacuum pack closureは,(1)腹腔内貯留液の速やかな排除と腹腔内臓器間スペースの減少による腹腔内容量の減少,(2)スポンジを創縁の腹壁に密着させ陰圧をかけることによる正中方向への持続的牽引圧維持,などが期待できます。3回以上の再手術を要する症例でも比較的高い閉腹率で,enterocutaneous fistula合併も低率と考えられます。米国で広く用いられるVacuum Assisted Closure(V.A.C.,米国KCI社),あるいは,(1)有窓のポリビニルシートで腹腔内臓器を被い,(2)その上をsurgical towelでカバーし,シリコンドレーンを2本置き,(3)ドレープで被覆して陰圧をかける,各施設オリジナルの“3-layer vacuum pack method”も,どこの施設でも応用できます。
重症外傷の初回手術に際しては,速やかに止血のための介入を行うことは,蘇生時間の不適切な延長と蘇生輸液の増加の回避につながります。さらに,早期より凝固因子を積極的に補充すること(damage control resuscitation)も速やかなショック離脱へと導き,早期に閉腹可能な状態とすることが考えられ,open abdomenとなる前からの戦略として重要です。
初回手術以降の48~72時間ごとに手術室での腹腔洗浄とdressing changeを繰り返し,毎回の手術操作では,定型的筋膜縫合による閉腹を試みることが必須です。閉腹の前には筋膜縫合を行ったのと同様の状態にして,呼吸・循環動態に大きな変動がないことを確認します。
閉腹不能な場合にはopen abdominal managementを続行しますが,開腹期間が長くなればなるほど腸管は癒着し,肉芽様組織で覆われ,容易に漿膜側の損傷が生じるようになります。浮腫のある長期のopen abdomenとなっている消化管を鑷子などの機器で安易に把持することは禁物です。ガーゼやタオルなどの繊維性素材と接したままにしない,経腸栄養のために腸瘻造設は行わずnasojejunalあるいはnasogastric tubeにより行う,そして,とにかく愛護的操作を徹底することが非常に重要です。初回手術から2週間はこれらの管理を行って,定型的閉腹を図るようにします。

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