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無症候性の頸動脈狭窄に対する治療法選択

No.4741 (2015年03月07日発行) P.54

堀口 崇 (慶応義塾大学医学部脳神経外科講師)

登録日: 2015-03-07

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

脳ドックなどでの頸動脈超音波検査で,無症候性の頸動脈狭窄がしばしば発見されます。「脳卒中治療ガイドライン2009」では,NASC ET(North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial)法で60%以上の狭窄は,抗血小板療法を含む最善の内科的治療に加えて,頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)を推奨しています(レベルB)。また,80%以上の高度狭窄に対しては,頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)も妥当な選択肢とされています(レベルB)。一方,スタチン系脂質改善薬,EPA製剤,シロスタゾールなどの内服による,頸動脈プラークの安定化や狭窄の改善などの報告も見ます。
私は原則,ガイドラインにしたがいますが,エコー上,狭窄率60%前後で末梢血流量が保たれている場合は,内服薬も重視し,患者さんと相談しつつ治療法を決定しています。慶應義塾大学・堀口 崇先生は,狭窄率に応じて外科的・内科的治療をどう使いわけ,組み合わせておられますか。
【質問者】
福永篤志:国家公務員共済組合連合会立川病院 脳神経外科医長

【A】

無症候性の頸動脈狭窄においてはNASC
ET法で60%以上の狭窄であったとしても,「病変の発見=即座に外科的治療の介入」とはならないと考えています。その理由は,近年の最善と考えられる内科的治療による脳梗塞の予防効果が非常に高くなっていることに加え,頸動脈狭窄症を有する患者さんは,その後,主たる治療対象となる疾患が変化していく場合が多いからです。
私は狭窄率にかかわらず,抗血小板薬の内服加療を開始し,高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙習慣などの危険因子が最善と考えられる内科的治療で管理されている状況で,まずは経過観察すべきであると考えます。一方,高度狭窄症例で狭窄部最大血流速度が200cm/秒以上に達している,プラークの性状が低輝度エコーまたは表面不整(潰瘍の形成),脳血流および血管反応性が低下している,などが認められる症例は将来の脳梗塞発症リスクが高いと考えられるため,年齢や合併症を評価した上で積極的に外科的治療を考慮します。
外科的治療を選択した場合でも,周術期合併症および術後再狭窄,あるいは新たな病変の発生,動脈硬化の進展を予防する目的で,最善と思われる内科的治療を組み合わせることは必須だと考えています。また,抗血小板薬の投与に関しては,術後も原則的には継続としていますが,観血的治療が必要となった場合,アレルギーなどの副作用がある場合,出血傾向が問題となる場合は,適宜,投与の休止あるいは中止が可能か検討します。
経過観察となった場合は,狭窄率,プラークの性状,狭窄部最大血流速度,頭蓋内虚血性病変などの進行が生じていないかどうかに注目しています。最善と思われる内科的治療による管理下で,まずは3カ月後に再検査を行い,その後は半年ごとに画像で経過を追いながら,外科的治療介入のタイミングを逃さないようにすることが重要だと考えています。時には,半年から1年の経過で内科的治療が功を奏し,プラーク退縮やプラーク性状の安定化が認められる場合もあります。
また,経過観察中に新たな全身合併症,腎機能障害,血管疾患(特に冠動脈疾患),呼吸不全,悪性腫瘍などが生じているか否かは,常に考慮する必要があります。健康な状態で寿命を延ばすこと,QOLを保つことを基本的な方針と考え,頸動脈狭窄率のみにとらわれることなく,複数のパラメーターを組み合わせて,個々の症例に最適な治療方針を組み立てることを心がけています。

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