京都大学医学部を卒業後、大阪赤十字病院、神戸市立医療センター中央市民病院、京都大学医学部附属病院で計6年間臨床にどっぷり浸かりながら、論文作成にも積極的に取り組みました。
2020年には大学院に進み、臨床から研究という京大出身者としてはスタンダードなキャリアを積む中で、起業という選択肢など全く頭にはなく、特定の専門分野で第一人者になることを目指し、ひたすら努力していました。しかし周囲が非常に優秀で、私以上に仕事を楽しんでいる先生がたくさんいることを目の当たりにし、臨床においても研究においても何か少し素質が足りないと感じるようになりました。
大学院に進んだころから、より大きな社会的インパクトを与えられる方法について考え始め、私の周囲にベンチャーを立ち上げた先生が複数いたこともあり、起業を意識するようになりました。かといって具体的なアイディアがあったわけではなく、何かできることはないかと研究生活を続ける中で模索し、事業構想に1年以上を費やした2022年9月にMedixpostを創業しました。
最新論文や臨床的なTipsなど医学の重要情報を共有し、手軽に知識をアップデートできるオンラインコミュニティです。現在、脳神経内科領域に特化し、脳神経内科医の4割以上に登録いただいており、同領域で日本最大級の医師限定コミュニティとなっています。
医師にとって知識のアップデートは大きな課題です。これまで医師は学会に参加したり、論文や医学書を読んだりして、知識を得てきました。しかし論文はすべて英語で書かれている上に、脳神経内科領域の論文数でいうと40年前に比べ約100倍に増えているなど情報量は急速に増えているため、知識取得が追いつかないのです。論文掲載サイトやSNS等でも多くの情報が発信されていますが、膨大な量の情報を取捨選択し、優先順位を付ける必要があります。
その通りです。学会やセミナーなどこれまでの知識取得の方法は手間や時間がかかるという点も課題と感じていました。学会に行けば1日がかりとなり、セミナーで講演を聴くにしても1時間かかります。論文に当たる場合でも、論文検索から始まり、論文の内容を自分なりに掻い摘んで理解するプロセスが必要になります。忙しい毎日でその時間を捻出するのは容易ではありません。一方で、中堅以上の医師には得意分野や専門分野があり、十分なアップデートをしていることが多いのですが、学会発表や論文執筆などのかしこまった形ではなく、知識を気軽にアウトプットできる場はありませんでした。そこで、多くの医師が自分の得意分野の知見をシェアすることで、他の医師が診療のスキマ時間にWebニュースを読むのと同じ感覚で効率よく知見を得られる仕組みの構築を目指したのです。
製薬や医療機器メーカーからいただく広告料、データ提供料でマネタイズするビジネスモデルです。医療界の課題解決ができてかつ、ビジネスとしても成立するモデルにしています。
脳神経内科という1つの専門領域に特化している点にあると思います。医師は一般的に自分の専門領域に関する知識のアップデートしか求めていません。私も他科の知識は院内のほかの先生に聞いたり、オンラインで質問したりします。専門に特化した情報を提供することで、本当に必要な人に必要な情報を届けることが可能になり、ユーザーのエンゲージメントがとても高くなります。ユーザーは知識を取得して、臨床力を高めるという明確な目的意識を持ってMedixpostを訪れるため、医師の行動変容を起こしやすく、製薬メーカーや医療機器メーカーにとっては、しっかりセグメントしたデジタルマーケティングが可能になります。新薬の開発トレンドは10年くらい前まではプライマリケア領域がメインでしたが、現在はスペシャリティ領域に移っています。こうした環境変化もあり、Medixpostの提供できる情報価値は高まっていると感じています。
Medixpostは、フリーフォーマットで投稿がしやすく、知識をアウトプットするハードルが下がっています。実名による信頼性の高い情報が公開されることで、多くの医師が必要な情報に効率よくアプローチすることが可能です。また、閲覧数や「いいね!」数を誰でも確認できるため、閲覧医のニーズがオンタイムでわかります。投稿者と閲覧者がともにスキルアップし、医療の質の向上につながるサービスの構築を目指していきたいと考えています。
(聞き手・土屋 寛)