三重県松阪市が、市内の基幹病院に救急搬送された軽症患者から選定療養費を徴収することが話題となり、その件について本稿(No.5209)で取り扱った。その際、「まったくもって救急車の有料化とは関係のない話」「出動を減らしたいという思惑は、そもそもの選定療養費の考えとは一致していない」と、この取り組みには相当に誤謬が含まれているのではないかと指摘した。結果としては、制度導入後に松阪市では救急車の出動件数が2割ほど減ったということで、出動を減らしたいという思惑は叶っている。
ただ、そもそもの選定療養費のシステムの目的は、「医療機関の機能分担・相互連携の推進」である。選定療養費の導入を評価するアウトカムは、出動件数でなく、機能分担がどれだけ進んだかということであるべきだ。搬送が減った分、紹介件数が増えるなど、本来の目的を達成したかどうかの評価が望まれる。
このような状況の中、12月から茨城県において、県を挙げて選定療養費の徴収を始めようという動きがある。茨城県では、救急搬送者の6割以上が一般病床数200床以上の大病院(25病院)に集中しているということで、医療機関の機能分担・相互連携をさらに推進する必要があるとして、選定療養費の徴収について足並みをそろえる方向としたようだ。
これは本来の選定療養費の目的と一致している。しかし、「不要不急の救急要請を控えましょう」というメッセージも同時に出しており、出動を減らしたいという思惑が透けて見える。200床以上の病院に搬送され、入院とならなかった場合には選定療養費を徴収するということを、本来の目的を守ったままに実行するのであれば、200床未満の医療機関での救急受け入れを促進しなければならない。こうすることで、初めて本来の機能分担が達成される。
実際のところ200床以上の病院がほとんどの救急の受け入れをしているので、選定療養費が救急車有料化のようになってしまっているというのが実態とは思う。しかし、なし崩し的に救急車有料化への流れができてしまうのではないかと危惧している。
茨城県に続いて、多くの都道府県が追随するようなことがあれば、本来の選定療養費としての存在感はなりをひそめ、救急車の利用制限の道具に成り下がってしまうのではないか。有料化の議論は、それはそれでしっかり向き合う必要がある。このままでは、既成事実だけが積み重ねられ、議論が深まらないばかりか、ストップしてしまうのではないか。
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[選定療養費][本来の機能分担]