株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

熱中症[私の治療]

No.5234 (2024年08月17日発行) P.40

西田有正 (慶應義塾大学病院救急科)

登録日: 2024-08-20

最終更新日: 2024-08-14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 暑熱環境によって生じる生体障害の総称が熱中症であり,その症状は多彩である。めまい,失神(立ちくらみ),生あくび,大量の発汗,強い口渇感,筋肉痛,筋肉の硬直(こむら返り),頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感,意識障害,痙攣,せん妄,小脳失調,高体温等の症状を呈しうる。熱中症はⅠ度(熱失神,熱痙攣),Ⅱ度(熱疲労),Ⅲ度(熱射病)に分類される。
    Ⅰ度は基本的に現場にて対処可能な病態である。熱失神は発汗・血管拡張が原因の一過性意識消失であり,体温は正常もしくは軽度上昇し(通常38℃以下),日陰への移動,水分補給および安静で改善することが多い。熱痙攣は高温多湿環境での作業による,塩分喪失を伴う多量の発汗(電解質異常・脱水)が原因の筋痙攣であり,体温は正常もしくは軽度上昇をみる(通常38℃以下)。塩分を含む水分補給を行い,必要に応じて輸液を行う。
    Ⅱ度は速やかに医療機関への受診が必要な病態であり,高度の脱水および末梢血管拡張による循環障害が主病態となる。体温は上昇(通常40℃以下)し,冷却および輸液が必要となる。
    Ⅲ度は入院加療,場合によっては集中治療が必要な病態であり,体温調節機能は破綻し,中枢神経症状,肝・腎機能障害,血液凝固異常,播種性血管内凝固症候群(DIC)などの臓器障害を呈するものである。高体温(通常40℃以上)を呈し,緊急冷却が必要となる。

    ▶病歴聴取のポイント

    当然ながら,気温や室温は環境要因の危険因子として重要である。熱中症の病態は,労作性熱中症と非労作性熱中症の2つに大別される。

    若年男性のスポーツ,中壮年男性の労働による労作性熱中症は屋外での発症頻度が高く,重症例は少ない。

    高齢者では男女ともに,主に屋内で起こる非労作性熱中症の発症頻度が高く,数日かけて悪化する場合が多い。エアコンの有無などの聴取が必須である。敗血症や脳卒中等の疾病との鑑別を要する。内因性疾患が先行し,暑熱環境への曝露でそれが顕著化した可能性もある。

    高齢,独居,日常生活動作の低下,精神疾患や心疾患などの基礎疾患を有することが,熱中症関連死に対する独立危険因子である。

    上記のことを念頭に病歴聴取をすることが望ましい。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    適切な体温測定が肝要となる。直腸温などの深部体温がより正確であり望ましいが,意識レベルが清明で歩行も可能な場合などは,腋窩温などで代用することは可能である。脱水の有無については,口唇や舌の観察,腋窩の診察によって情報を得ることができる。

    WEBコンテンツ「産業医が知らなきゃならない熱中症対策のポイント」

    残り699文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top