株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「予防接種健康被害救済制度が誤解をまねかないように」勝田友博

No.5209 (2024年02月24日発行) P.61

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2024-02-05

最終更新日: 2024-02-05

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

最近、ネットニュース等に、「コロナワクチン接種後に死亡した○○人が救済対象に認定」という内容の記事がしばしば掲載されている。その見出しだけを一般の方が読むと、「コロナワクチンでそんなに多くの方が亡くなっているのか」と誤解をまねくことが危惧されるため、改めて国内における制度を整理してみたい。

まずは、言葉の定義を明確にする必要がある。「副反応」は予防接種を原因として発生したことが明らかな健康上の問題、「有害事象」は予防接種後に発生したあらゆる健康上の問題、と定義されている。すなわち、有害事象の一部には予防接種とは関連のない事象が実際に含まれる可能性がある。したがって、予防接種との関連性が検討中である段階では「有害事象」と表現するほうが正確であると言える。

国内における予防接種後の有害事象に関連する制度には「予防接種後副反応疑い報告制度」と「予防接種健康被害救済制度」の2種類がある。

予防接種後副反応疑い報告制度は、一定の基準をもとに医師、製薬会社、保護者などから報告された有害事象を、厚生労働省の審議会において専門家が医学・薬学的観点から総合的に予防接種との因果関係を評価する制度である。なお、同制度においては、「副反応疑い」と表記しているが、実際は有害事象と同義である。

たとえば、2023年7月末時点で同制度に「新型コロナワクチン接種後の死亡」と報告された総数は2180例であるが、そのうち実際に同ワクチン接種と死亡との因果関係が否定できないと判定されたのは2例であり、その他の多くの報告は情報不足等により同ワクチン接種と症状名との因果関係が評価できない、と判定されている1)

予防接種健康被害救済制度は、被接種者本人やその家族が健康被害を自ら申請し、厚労省の審査会において予防接種と健康被害との因果関係が認定された場合、迅速にその救済を図る制度である。

予防接種後副反応疑い報告制度と大きく異なる点は、「その救済認定にあたっては、請求されたワクチンとの厳密な医学的な因果関係の証明を必要とせず、接種後の症状が予防接種によって発生したことを否定できない場合も救済対象とする」との考え方に基づいて審査が行われる点である。

その結果、2024年1月時点で、同制度に対する新型コロナワクチン接種後の死亡一時金の支払い申請は1158件であったが、そのうち453件を支払い認定している2)。予防接種健康被害救済制度における、因果関係が否定できない場合も広く救済対象とするという方針は、国民に安心して予防接種を受けてもらうという点では理想的であるが、一方で「国による救済認定=国がワクチンによる死亡であると因果関係を明確に認めた」と誤解をしてしまうことがある。

実際、文頭で紹介したネットニュースも、予防接種健康被害救済制度に関連した内容であり誤報ではないが、その正確な理解には十分な事前知識が必要となる。我々医療従事者は、両制度の詳細を正確に理解し、国民に対して丁寧に説明する必要がある。

【文献】

1)厚生労働省:第98回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和5年度第11回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料.(2023年10月27日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00070.html

2)厚生労働省:第8回疾病・障害認定審査会感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第三部会資料.(2024年1月26日)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001198698.pdf

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[ワクチン接種][因果関係]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top