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【識者の眼】「異なる価値観を尊重する社会」小倉和也

No.5205 (2024年01月27日発行) P.63

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2024-01-15

最終更新日: 2024-01-16

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新しい年を迎えるにあたり、目標を立てる人も多いだろう。そんなとき、自分だけにとどまらず、世の中を良い方向に、という少し大きな目標を立てることを提案するエッセイが目にとまった1)。広大なとうもろこし畑でも一列ずつ作業を続けていけば収穫できるように、一人ひとりが少しずつできることをしていくことで、人生も豊かになり、世界を救うことにもつながるのだという。

思い返せば戦争や性被害、各国で深刻化する移民問題など、世界でも日本でも2023年は暗いニュースが多かったように思う。様々な価値観や利害、経験を持つ人間同士が、折り合うことの難しさを日々思い知らされ、未来への希望が描きにくくなっているようにも感じた。

人はそれぞれ、人種や宗教、性別や国籍、その他たくさんの異なる側面を持っている。その人たちの見る世界やその経験が、お互いに異なることは当然であろう。しかし、違いを取り上げてその都度いがみ合いを続けていても、誰にとっても状況は良くならない。同じアフリカ系アメリカ人作家でも、男性であるJames Baldwinと女性であるAndre Lordeでは、その経験は異なるとしても、状況を改善するために同じ目的に向かうことが大切だという対談での語り2)は、おそらくその他のすべての違いにも当てはまるものだろう。

それぞれの価値観と経験が異なることを認識しつつも、互いに尊重し合うことで社会とその活動が成り立つとすれば、それは必ず相互的でなければならないはずだ。しかし、問題が起きるところにはいつも、一方の価値観や権利を主張することで、他方の権利を奪ったり抑圧したりする構図が生じているように思う。

それぞれが自己の価値観を正しいと思うことと、他の人にそれを押しつけることは別のことなのだが、これを混同せずにいることは、実はきわめて難しい。社会の多様化が進む一方で、SNSなどでの事例に代表されるように、逆に違いを認めず価値観を押しつける傾向が強まっていることも社会に深刻な懸念を与えている。

すべての人の人権を尊重することは共生社会の基盤であるだけではなく、医療やケアの基本でもある。しかし、それは社会の基本的な理念でありつつも、その実現は、人間の永遠の課題であるとも言える。

新しい年が、人と人が違いを認めつつも、互いに排除することも押しつけることもなく尊重し合える社会へ、より近づく年となることを願い、そのために1つでも何かを成し遂げることを、新年の目標としたい。

【文献】

1)New York Times公式サイト:OPINION.(2023年12月26日)
https://www.nytimes.com/2023/12/26/opinion/new-years-resolutions.html

2)The Museum of Contemporary African Diasporan Arts(MoCADA)公式サイト:Revolutionary Hope:A Conversation Between James Baldwin and Audre Lorde. 
https://mocada-museum.tumblr.com/post/73421979421/revolutionary-hope-a-conversation-between-james

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新年の目標]

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