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【識者の眼】「感染性SARS-CoV-2の管理とバイオセーフティ」西條政幸

No.5195 (2023年11月18日発行) P.61

西條政幸 (札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2023-11-02

最終更新日: 2023-11-02

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2002年の暮れから2003年にかけて、主に中国で流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)では、約8000人の患者が確認され、そのうち約800人が死亡したので、致命率は約10%である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行での致命率は、SARS-CoV-2オミクロン株による流行前、かつワクチン接種が実施されるまではとても高く、たとえば札幌市では、ワクチン接種が広まる前のSARS-CoV-2アルファ株による致命率は3%を超えている。

国立感染症研究所(感染研)で感染性SARS-CoV-2が患者サンプルから分離された時期は、中国、オーストラリアに次いで早かった。その後、相次いで多くの国々でSARS-CoV-2の分離がなされたのは言うまでもない。研究の推進、検査法、抗ウイルス薬やワクチン開発、感染症対策の強化には、多くの関連機関に感染性SARS-CoV-2を迅速に共有(分与)する必要があった。私たちは積極的にその作業を担当した。

SARS-CoV-2オミクロン株によるCOVID-19流行が始まって、約2年が経過した。その影響とワクチン接種の広がりにより、病原性のきわめて高い武漢株由来系統のSARS-CoV-2は社会から消えている。私は根絶されているのではないかと推察している。現在流行しているSARS-CoV-2オミクロン株から、再び病原性が高まったSARS-CoV-2が出現するとも考えにくい。

2003年6月にSARS流行が終息した後、台湾、シンガポール、中国でウイルス研究者の実験室関連SARS-CoV-1感染事故が起こっている。2004年の中国での感染事故では、感染した研究者が源となり、一般社会で小規模な流行に発展し、1名がSARSで死亡した。このことは実験室感染事故が社会の流行につながるリスクを示している。

現在、多くの施設でSARS-CoV-2や、感染性SARS-CoV-2が含まれる臨床検体が数多く保管されている。バイオセーフティの観点から将来的にはSARS-CoV-2の管理がこれまで以上に徹底される必要が生じるものと考えられる。過去、根絶、または、根絶に近い感染症の病原ウイルスの管理が国際的に厳格化された代表的な例として痘瘡ウイルスやポリオウイルスが挙げられる。今から、SARS-CoV-2(オミクロン株は含まれない)の管理のあり方について、国際的な協調の下に関係者で検討することが求められる。

西條政幸(札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)[実験室感染事故][保管ウイルス・検体の管理]

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