株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

安倍首相「壁を突き抜けるような政策」 - “岩盤規制”の医療は混合診療拡大が柱 [新成長戦略] 

No.4704 (2014年06月21日発行) P.10

登録日: 2014-06-21

最終更新日: 2016-11-16

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【概要】政府はアベノミクスの「第3の矢」となる新成長戦略の改訂案をまとめた。医療分野では保険外併用療養の新たな仕組みとして「患者申出療養」を創設することが柱となる。


政府は16日、産業競争力会議(議長=安倍晋三首相)を開き、新しい成長戦略となる「日本再興戦略」の改訂案をまとめた。新成長戦略は、アベノミクスの「第3の矢」として産業競争力会議のほか経済財政諮問会議、規制改革会議などで議論されてきた政策を網羅。安倍首相は「これまで乗り越えられなかった壁を突き抜けるような政策を盛り込むことができた」と強調した。今後は改訂案を基に与党との調整を図り、経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」とともに月内の閣議決定を目指す。

●甘利担当相「タブーだった分野に切り込めた」
医療・介護は雇用や農業と並ぶ「岩盤規制」が残る重点課題に位置づけられ、成長産業化に向けた施策が多数盛り込まれた。
医療分野で注目されるのは、(1)保険外併用療養費制度の新たな仕組みとなる「患者申出療養(仮称)」創設による混合診療の大幅拡大、(2)複数の医療法人や社会福祉法人の経営効率を高める「非営利ホールディングカンパニー制度(仮称)」の創設―の2点。
(1)は規制改革会議の答申を踏まえたもので、患者の申出に基づき混合診療の対象を拡大する制度。国に対し、事前に実施計画書、事後に結果報告の提出を義務づけ、安全性・有効性を確認する。次期通常国会で関連法案の提出を目指す方針だ。(2)については、複数の医療法人や社会福祉法人等を統合し、一体的な経営を可能とする枠組みを設けるというもの。「グループ全体での円滑な資金調達や、医療介護事業を行う営利法人との緊密な連携」などがメリットとされる。このほかの主な項目は別掲の通り。
甘利明経済再生担当相は会議終了後の会見で、混合診療の大幅拡大に向け患者申出療養制度を創設した点について、「歴史的改革」と強調。「農業や医療は我が党(自民党)の支持基盤。触れることすらタブーだった分野に切り込めた意義は大きい」と述べた。

●規制改革会議は「選択療養」から軌道修正
新成長戦略改訂案の取りまとめに先立つ13日、規制改革会議(岡素之議長)は規制改革に関する提言をまとめ、安倍首相に答申した。答申は医療分野を最重要課題に位置づけ、9分野にわたり項目が設けられた。
新成長戦略に盛り込まれた患者申出療養制度の創設について同会議は当初、患者と医師の合意があれば保険外併用を可能とする「選択療養(仮称)」創設による混合診療の大幅拡大を目指していた。しかし厚労省を含めた医療界の強い反対により、前例のない治療に関しては国が安全性・有効性の評価に関与し、将来的には保険収載を目指す方針を明示する形で決着した。
医療分野関連ではこのほか、新たな項目として「プライマリ・ケア体制の確立」が盛り込まれた。適切なプライマリ・ケア体制の確立が地域住民の大きな安心につながるとし、専門的な能力を持つプライマリ・ケア医が医療連携のゲートキーパー機能を果たすことを求めている。

●医療界は「患者申出療養」を了承へ
規制改革会議による「患者申出療養(仮称)」創設の提言を受け、日医、日歯、日薬の三師会は13日、合同で記者会見を開き、安全性・有効性の確認と将来的な保険収載を目指す点が盛り込まれたことを、「最低限の担保がされた」(横倉義武日医会長)として、新制度を了承する意向を示した。
日医をはじめとする医療界は、「現状の評価療養制度の拡大で十分」との主張を続けてきたが、新制度では評価療養制度と比べ保険外診療の対象医療機関が拡大することなどを評価し、新制度を了承。日医の中川俊男副会長は、当初の規制改革会議案では、事前の安全性・有効性の検証がなかった点に触れ、「事前の確認が入り格段の違い」と述べた。

●「毎年薬価改定」は政府与党で意見対立
一方、自民党は17日、政調全体会議と日本経済再生本部の合同会議を開き、骨太方針の素案を巡り議論を行った。素案では現行2年ごとの「薬価改定」の間隔を短縮することについて検討するとしているが、厚生労働部会長代理として出席した渡嘉敷奈緒美元厚労政務官は、薬価財源を医療のために使うことを明確化し、薬価改定は従来通り2年に1度、診療報酬改定とセットで実施するよう求めた。
同会議に先立ち開かれた同日の自民党厚労部会でも、2年ごとの頻度を堅持するよう求める決議文を採択。骨太方針の素案では当初、「毎年改定」の表現が盛り込まれていたが、自民党内の批判を受け「頻度を含めて検討」に後退。しかし、甘利担当相は素案を発表した13日の会見で、「基本として(期間を)短くすることを念頭に検討する」との構えを崩しておらず、今後の政府・与党間の交渉に注目が集まる。

【記者の眼】政府が新成長戦略の目玉とする「患者申出療養制度」は実効性が乏しい。混合診療の大幅拡大に反対する日医が了承したことからもわかるように、有名無実化する可能性が高い。成長戦略の多くが株価対策のための美辞麗句とすれば納得がいく。(T)

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top