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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『2022年平均寿命と生命表』のみかた」鈴木貞夫

No.5183 (2023年08月26日発行) P.60

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2023-08-08

最終更新日: 2023-08-08

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7月29日に2022年の生命表と平均寿命が発表された1)。男性は81.05歳、女性は87.09歳で、昨年に比べ男性で0.42歳、女性で0.49歳短縮し、いずれも2年連続で前年を下回った。これはかなり大きな短縮で、男性では17年レベル、女性では15年レベルまで平均寿命が後退したことになる。

平均寿命は、すべての年齢の死亡率から計算される指標で、生命表の一部(0歳平均余命)として発表される。死亡率は1歳刻みで計算され、実際の年齢構成の影響を受けない。平均寿命は、その死亡率で10万人いた(この人口は計算に影響を与えない)新生児が0歳死亡率の分だけ減少して1歳になり、次に1歳死亡率の分だけ減少して2歳になり……という計算を全員死亡するまで繰り返したときの、死亡時平均年齢である。

平均寿命は死亡現象の指標として重要で、医師国家試験でも頻出である。21年の出題2)は「平均寿命を表す数値はどれか」を問うものであった。

a. その年の死亡者の年齢の平均値
b. その年の最も死亡率の高かった年齢
c. その年に最も多くの死亡者がいた年齢
d. 生命表から作成した生存率曲線下の面積
e. 生命表から算出した生存率が50%になった年齢

aは世間が漠然と思い描く平均寿命の理解(国試の有名な「ひっかけ」)と思われる。最近、データサイエンティストを名乗る匿名氏から「鈴木は超過死亡が起きているのに問題視しないのはなぜか」という質問を受けたが、理解がaで愕然とした。死亡指標を年齢で表すというのは理解が難しい面もありそうだ。死亡率は成年期以降単調増加なのでbも間違い。c、d、eは統計学における3つの代表値のうち、最頻値、平均値、中央値を表すので、正解はdである。

「死亡率」の計算には年齢別の人口が必要で、平均年齢は生きた人間のプールからどれだけ死亡が発生するかの指標である。死んだ人の数しか見ていない超過死亡と「死亡指標」として比較することはできない。「22年の死亡158万人超、戦後最多」であっても3)、死亡率は16年レベルで、戦後最大の死亡現象などは起きていない。

生命表の年齢ごとの死亡率から22年の死亡現象を観察すると、前年に比べて65歳以上の死亡率の上昇が広く認められ、90歳まで上昇が認められなかった21年と大きく異なっている。22年はオミクロン株が猛威を振るった年であり、個々の症例の軽症化を上回る感染者の爆発的増加で死者数も増加した。死亡診断書上でコロナに起因する平均寿命の短縮は男0.10歳、女0.11歳とあり、平均寿命短縮の4分の1弱を説明できる。このほかにもコロナを直接死因としない「コロナ感染による基礎疾患死亡」も相当数あったと推測される。

超過死亡や、平均寿命の短縮の情報が出ると、ワクチンの副反応を疑う言説が多く出るが、これは本来「集計レベル」の公開データから分析されるものではなく、接種歴や死亡についての個人のデータベースを完備して解析するしかない。

【文献】

1)厚生労働省:令和4年簡易生命表の概況.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html

2)厚生労働省:第115回医師国家試験F問題.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp210416-01f_01.pdf

3)日本経済新聞: 22年の死亡158万人超、戦後最多 コロナ余波も(2023年2月28日).
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA277KO0X20C23A2000000/

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症][超過死亡]

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