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【識者の眼】「病児達も修学旅行に‼」邉見公雄

No.5175 (2023年07月01日発行) P.57

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2023-06-20

最終更新日: 2023-06-20

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「医療的ケア児 旅行も普通に」という新聞記事を見て昭和50年代初めの事を思い出した。赤穂市民病院の外科で働き始めて数年目の出来事である。近くの小学校の教頭先生が、ある1人の生徒の診断書を書いて欲しいというのである。その児は私の患者さんという訳ではないが、よく腹痛で小児科を受診、当直の夜などに数回診させて頂いた。その頃は“バウフノイローゼ”との奇妙な診断名(腹部神経症)。今で言えば神経性胃腸炎か過敏性腸管症候群であるが、もし同級生と修学旅行に行けないと、症状が悪化したり、登校拒否や自閉症、引き籠りになる可能性もあると考え、病気を説明し本人と親御さんにも来院して頂き、「ノバミン®」と「ブスコパン®」を屯用で処方した。九州への修学旅行中、何のトラブルもなかったため、教頭先生からお土産に博多銘菓「ひよこ」を頂いた。

もう1人は強烈な印象が残っている。血友病の男児である。体操の授業も見学している状態で、学校側はとても連れて行けないと言う。しかし、小学校最大の思い出が共有できないのは辛く悲しいだろうと、父親が相談しに来院した。彼は薬品卸の会社に勤めており、自己注射薬を家庭で注射したりしていたので、会社を休んで同行したい。そして何かあった時の注意事項をメモ書きして欲しいと言われた。彼は病院祭にボランティアとして参加してくれたり、サービス品を患者さんに配ってくれたりして旧知の間柄であった。私は近くの医療機関への紹介状も書き添えて学校側にもぜひにとお願いした。元々修学旅行は色々な事を学ぶ旅なのだから、トラブル処理も先生は生徒と学ぶべきと、今度は偉そうに一席ぶった。その頃は土地では少し顔が売れていたので。この旅行も定期注射を父親が無事に行い予定通り帰って来た。担任の先生が「良かったです。案ずるより産むが易しですね」と。少しハッタリ気味の発言で「連れて行くように」と言ったので、威張るよりホッとしたのを覚えている。

今はそんな事もなく、学校にも養護教諭だけでなく看護師もいる時代。ケア児も普通に学べるようになった事を、この記事を見て心底嬉しく思ったので、この稿を認めた。その児達も今は子や孫達を送り出す齢になっている筈である。

今住んでいる京都の家の近くに修学旅行の宿屋がある。楽しそうに話しながらバスから降りて来る子供達を見る度に、これは学校行事で最高のイベント、日本が誇るべきものだと実感する。読者諸兄姉も思い出して下さい。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[医療的ケア児]

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