株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

薬物腐食[私の治療]

No.5167 (2023年05月06日発行) P.53

雑賀司珠也 (和歌山県立医科大学眼科学講座教授)

登録日: 2023-05-03

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 眼表面(角膜,結膜)に組織障害性の薬物が飛入したことによる外傷で,受傷後早期の組織障害と炎症,および治癒後の瘢痕形成と角膜形状不正による乱視惹起が主病態である。眼内(前房)に炎症が及ぶ虹彩炎の有無も重要ポイントである。上皮欠損治癒促進・炎症抑制は,治癒過程の円滑化だけでなく,視力維持の観点から,治癒後の瘢痕による混濁と角膜形状異常の双方の抑制の目的で重要である。晩期に慢性緑内障や白内障が発症することがある。一般に酸性薬物に比べて,アルカリ性薬物のほうが角膜実質深部に障害が及びやすい。

    ▶診断のポイント

    問診による薬物飛入の確認と角膜,結膜の損傷の評価が重要である。爆発などの大事故で意識障害がある場合は,顔面への薬物付着も含めて眼科的診察を行う。不明薬物の場合,酸性薬物かアルカリ性薬物かを,問診とリトマス紙などで迅速に評価することが必要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    医療機関での対応は受診後早期(おおむね1週間以内),初期修復期,後期修復期,と分類できるが,電話などで救急受診の問い合わせを受けた時点で,その場で受傷者が水道水などで十分な洗眼を行うことを指示する(約10分程度を目安)。

    【受診後早期】

    医療機関受診後は,速やかに一般眼科検査(視力,眼圧,細隙灯顕微鏡での眼表面の障害程度と範囲,眼内炎症の程度評価)を行うと同時に,問診で飛入薬物の種類を確認する。リトマス紙を用いて,中性をめざして生理食塩水による洗眼を行う(2Lは必要)。結膜囊内まで十分に洗浄する。異物は洗浄または除去する。入院の上,炎症抑制,混合感染の予防,上皮治癒再生促進,鎮痛を図る。

    【初期修復期】

    引き続き,炎症抑制(角膜組織内と眼球内前房),混合感染の予防,上皮治癒再生促進,鎮痛を図る。角膜上皮の再生には角膜と結膜の境界部(輪部)の上皮幹細胞の残存が不可欠なため,輪部が全周にわたって障害されている場合(木下分類1)のgrade 3bおよびgrade 4)は上皮欠損の修復が遅延または困難になることが想定される。全周輪部がすべて障害されている場合は,前述のような難治予後に陥る可能性をあらかじめ説明しておくことが患者・医療者双方にとって望ましい。

    【後期修復期】

    輪部の高度な障害に伴って,角膜上皮の治癒が得られない場合,外科手術が考慮される。片眼の薬物腐食障害であれば,他眼の輪部の一部の自家移植なども検討されるが,重症の場合,羊膜移植(実施認定施設)や培養口腔粘膜上皮細胞シートの移植(2021年12月より保険適用)などが施行できる高度専門医療機関への紹介が必要となることがある。

    また,眼球表面の再被覆が得られた場合でも視力障害の原因が残ることがある。角膜実質の瘢痕性混濁には表層角膜移植,角膜内皮障害を伴う混濁では全層角膜移植,実質の瘢痕収縮による高度な乱視にはハードコンタクトレンズ装用での対応が必要となる。また,治癒後の慢性緑内障や白内障に対する治療は,緑内障治療での薬物療法や外科手術の治療指針に従う。

    残り946文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top