マールブルグ病は,マールブルグウイルス(フィロウイルス科)による熱性疾患です。潜伏期間は主に3〜10日間です。発熱,頭痛,筋肉痛,皮膚粘膜発疹,咽頭結膜炎に続き,重症化すると下痢,鼻口腔・消化管出血がみられ,エボラ出血熱に類似します。ヒトからヒトへの感染経路は,血液,体液,排泄物との濃厚接触および性的接触です。特異的なワクチンや抗ウイルス薬はなく,主な治療は支持療法と対症療法になります1)。
日本では,感染症法上の1類感染症に指定されており全数届け出疾患です。日本国内では集計が開始されて以降,これまでは輸入例を含めマールブルグ病の報告はありません。
一方で,世界では散発的にアウトブレイクが発生しており,2022年6月にはガーナ共和国でアウトブレイクが発生し,本連載でも取り上げました(No.5140,第4回参照)。このアウトブレイクでは,合計3例(うち2例死亡)のマールブルグ病が確認され,アウトブレイクに関して合計198人の接触者が特定され健康監視が実施されました2)。
2023年1月7日から2月7日の間に出血熱の疑いのある8例の死亡例が,赤道ギニアから報告されました。症状は,発熱,嘔吐,血便,皮膚病変,耳出血などでした。
その後,2月12日にセネガルのダカールにあるパスツール研究所で詳細な検査を行ったところ,マールブルグウイルス陽性が判明しました。2023年4月11日の時点で,確定15例(11人死亡,致死率78.6%),疑い23人(全例死亡)が報告されています。報告された地域が約150キロメートル離れていることから,ウイルスが赤道ギニア国内で広く伝播していることが示唆されています。赤道ギニアにおけるマールブルグ病のアウトブレイクは今回が初めてです3)。
タンザニアでは,発熱,嘔吐,出血,腎不全などの症状を呈した8人の原因を調べたところ,マールブルグ病であることが判明しました。8人のうち,医療従事者を含む5人が死亡し,残りの3人は治療を受けています。また,合計161人の接触者が確認され,健康監視されています。タンザニアにおけるマールブルグ病のアウトブレイクも今回が初めてです4)。
・現時点で,赤道ギニアやタンザニア国内におけるマールブルグ病の感染拡大のリスクは高いものの,日本など国外への感染拡大の可能性が高い状況ではありません。
・しかし,航空網が発達している現代では,国と国との距離がとても遠くはなく,感染症に国境はありません。いつ,日本でマールブルグ病の疑い例が受診するかわかりません。
・世界におけるアウトブレイク情報にアンテナを張り,注視しておくことが大切です。
【参考文献】
2)WHO Ghana:Ghana declares end of Marburg virus disease outbreak.