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ペニシリン耐性肺炎球菌感染症[私の治療]

No.5164 (2023年04月15日発行) P.46

栁原克紀 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野(臨床検査医学)教授)

登録日: 2023-04-14

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  • 肺炎球菌はレンサ球菌に属するグラム陽性球菌で,しばしば菌体が向かい合わさった双球菌,あるいは連鎖状として観察される。多くの病原因子が知られ,本菌が産生する酵素のひとつであるニューモリシンは,菌体外に分泌されて細胞や組織の融解に関わる。本菌が持つ莢膜や繊毛などは,宿主免疫細胞からの貪食から逃れるために有利である。莢膜は,血清型分類ならびにワクチン利用の面としても重要である。現在,莢膜多糖体の抗原性により90種類以上の血清型が確認されている。

    肺炎球菌感染症は,肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の感染により引き起こされる疾患である。菌血症を伴わない肺炎や,中耳炎,副鼻腔炎など非侵襲性の感染症と侵襲的な病態である髄膜炎,血流感染症などの無菌部位から本菌が検出される侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases:IPD)に分類される。わが国では全IPDの発生動向が調査されている。

    肺炎球菌は,市中肺炎の原因菌として最も分離頻度が高く,成人の細菌性髄膜炎の原因菌としても60~80%を占める。

    ペニシリン耐性肺炎球菌は,ペニシリン結合蛋白の変異により,ペニシリンのみならずβ-ラクタム薬全体に耐性になったものである。日本感染症学会,日本化学療法学会ならびに日本臨床微生物学会が実施している全国サーベイランスでは,呼吸器から分離された肺炎球菌の40~50%がペニシリン耐性肺炎球菌であった1)。わが国では,肺炎球菌の90%程度がマクロライド系抗菌薬にも耐性である点も考慮して,抗菌薬を選択する。

    ▶診断のポイント

    感染巣から採取した喀痰などの膿性検体のグラム染色で典型的なグラム陽性の双球菌を認めた場合には,本菌感染症を疑う根拠となる。本菌は一般培養検査で分離同定できるほか,尿あるいは咽頭ぬぐい・喀痰を材料としてイムノクロマトグラフィー法による肺炎球菌抗原検査が利用できる。血流感染症を疑う場合には,血液培養検査で分離を確認する。薬剤感受性については分離培養後に行うが,薬剤耐性遺伝子をPCR法で検出する方法が開発されている。

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