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【識者の眼】「高齢者などに感染リスク軽減の具体策を」中野雅貴

No.5156 (2023年02月18日発行) P.61

中野雅貴 (大阪市住之江区・なかのクリニック院長)

登録日: 2023-02-13

最終更新日: 2023-02-13

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2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まった当初、私は状況の推移を傍観していたが、訪問診療をしている高齢者施設で2021年1月に感染者が発生し、COVID-19の診療を開始した。

流行から3年目を迎え、COVID-19は5月8日から5類に引き下げられる。2類相当である現在でもかなり制限が緩和されており、類型変更に対する世間の反応も概ね好意的だ。現在のオミクロン株は変異を繰り返して免疫逃避し、感染拡大しているが、若年層にとっては罹患後症状が一定数みられるものの大多数は軽症で、決して恐れる病ではなくなっている。陽性と告知したときの反応も以前とずいぶん変わり、淡々と受け入れられている。

ただ、2類相当で課されている制限は5類になれば撤廃されるので、その影響を考えなければならない。これまで職場、学校等への配慮から検査を受けていたものの、診療費の自己負担が発生すれば症状の軽い若年者は検査を受けなくなる可能性がある。そうなればCOVID-19の感染者を特定できず、一般の感冒患者に埋もれてしまうだろう。これこそ5類にする真の狙いなのかもしれない。

一方、高齢者にとってはCOVID-19に感染すれば重症化のリスクはいまだにある。この8波でも私が診療している高齢者施設では短期間に感染が拡大した。普段から施設スタッフは標準感染対策を徹底し、定期的な抗原検査を実施していたが、1人感染者が発生した時には既に蔓延していた。感染者の中には酸素が必要な中等症以上のケース、救急搬送先で命を落とすケースもあった。また、軽症でも療養中に嚥下能力の低下、筋力低下などADLの低下をきたした。いったん感染が持ち込まれると対策を強化せざるをえず、しすぎるとかえって高齢者のADLを下げてしまうというジレンマに悩まされた。

私のクリニックは地域柄高齢患者の割合が高い。5類移行後は発熱患者も一般の外来で診察可能となるようだが、院内で現在行っている2類相当の感染対策をCOVID-19流行前の5類の季節性インフルエンザと同等に戻すべきなのだろうか。高齢者や持病のある患者にとってはいまだCOVID-19は危険な存在であり、そう簡単ではない。5類になるということはコロナ禍の終わりを意味するのだと多くの人が思うだろう。世間が明るく、自由に行動できることは素晴らしいことであるが、感染リスクもある程度許容する必要がある。今後高齢者や持病のある人に対し感染リスクを軽減する具体的な指針を示していただきたい。

中野雅貴(大阪市住之江区・なかのクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]

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