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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『反ワクチン言説の科学性』のみかた」鈴木貞夫

No.5156 (2023年02月18日発行) P.60

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2023-02-09

最終更新日: 2023-02-09

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かつて、研究者は論文で主張するとされていた。しかし、現在は即時性の高い査読のない論文、新聞・テレビ報道、一般雑誌やネット上の言説など、様々なレベルの主張が飛び交っており、妥当性の担保されないものもある。コロナ関連で言えば、当初から名誉教授の暴走が多い印象があり、専門外からの発言も目立っている。何を信頼したらよいのかという質問に、明確に答えるのは難しい。

最近よく見かけるのは、コロナワクチンに対する否定的な言説である。ワクチンは、健康人に使用するという特性上、エビデンスに欠ける悪評が立ちやすいことは、HPVワクチンで経験したことでもある。この反省もあってか、コロナワクチンでは比較的抑制のきいた報道がなされ、ワクチン不足批判も多かったこともあり、接種は順調に進んできた。しかし、オミクロン株の出現により、コロナ感染症の致死率が低下し、ワクチンの有効性が下がって来るのに合わせたかのように、「接種したほうが感染する」「副反応が多い」などの記事が増加してきた。しかし、そのほとんどは、学術的に因果関係に妥当性が認められないものである。いくつかの類型に分けて説明する。

エコロジカル型:観察単位が個人ではなく、集団同士の関連を見る(エコロジカル研究)もの。例えば、都道府県の対人口新規感染者数と接種率の相関係数をとり、接種が多いほど感染者が多いとするようなものを指す1)。エコロジカル的な関連は、個人の関連と一致するわけではなく、これで確定的な関連を言うことはできない。エビデンスレベルは低く、生態学的誤謬(ecological fallacy)という術語もある。

集計型:層ごとの割合の比較。例えば、接種回数ごとの感染率を見るようなもの。集計では、対象の属性の交絡調整はできず、結果が歪むことがある。ワクチンの予防効果を多変量解析で示している研究2)3)のデータの一部を引用して、接種回数による感染の減少は見られないと主張するネット記事もある4)

同時変化型:推移が一致している2つの事象を原因と結果と考えるもの。ワクチン接種回数と超過死亡の推移の類似性や高い正の相関を述べたもの5)が多い。時間の一部を切り取った偶然の産物であれば、同じデータを取り続けることによって、類似性はなくなり、相関係数は低下する。

少なくとも、もとの論文の趣旨を曲げたデータ使用や、自分の主張の誤りを修正しない言説は信頼に値しない。

【文献】

1)小島勢二:アゴラ言論プラットフォーム.
https://agora-web.jp/archives/221023082419.html

2)Ruth Link-Gelles, et al:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(48):1526–30.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7148e1.htm

3)Tenforde MW, et al:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(5152):1616–24.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm715152e1.htm

4)小島勢二:アゴラ言論プラットフォーム.
https://agora-web.jp/archives/230111021101.html?fbclid=IwAR1sczvIGR9qeIlNk4a9GKghrTCweq4Wmme2DldlV5ek6FdEx6a1Ml-s4l8

5)田口勇:PRESIDENT Online.
https://president.jp/articles/-/63781?page=3

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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