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【識者の眼】「医師の働き方改革─自己研鑽の範囲」野村幸世

No.5156 (2023年02月18日発行) P.62

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2023-02-01

最終更新日: 2023-02-01

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2024年度から本格的に医師の働き方改革が導入される。この助走とも言える準備が多くの医療施設で開始されていることと思う。この際に、「自己研鑽」と定義づけられる、職務内容に深く関係した内容ではあるが勤務時間には含まれない活動が何であるかの理解に、かなり常識外れであるものを見聞きする。

ある大学病院の医局では、カンファランスが自己研鑽と称して、夜に行われているそうである。私が所属する大学では、規則として守られているかどうかは別として、5年以上前に、まだ「働き方改革」という方針が聞かれる前に既に「意思決定を伴う会議は時間内に」というおふれが出ていた。これは、意思決定を伴う会議が、病棟などの業務以上に出席が強要されるものだという意味であると思う。このように言うと「いえいえ、強要していません。出たい人が出ればいいのです」というお答えが管理者からは返ってくる。これがまず大きな間違いである。会議やカンファランスは言葉で強要されていなくても、精神的に強要されているものだと思う。

私の医局において、今年の新年会を対面で開催するかどうかの議論が昨年秋にあった。新型コロナの感染の動向が見通せない状況であったが、感染症法上の5類への移行も噂された頃の話である。この時、自分の家族の状況などに鑑み、対面参加は難しい旨を述べる医局員がいたが、それに対し、「元から強制出席ではない」という意見もあった。このように、新年会という学術や診療とは関係のない話でも同じような議論が行われている。

人間はそもそも社会的生物である。自分も参加の可能性がある場に人々が集まり、そこに自分だけ出席をしない、もしくは出席できない。これだけでも十分、疎外感を味わうものである。子供が小さい頃の学会参加などで、そのような思いをしたことを覚えている。昨今の新型コロナでon line参加が可能なハイブリッドの学会も大分増えてはきたが、現地に行って知己と顔を合わせ、雑談もし、という参加とon line参加ではその価値は大分異なる。育児中は、育児という事業を行っているので学会に現地参加できない、という不都合はある程度は仕方ないものと思うが、その参加できない者の「思い」は汲んでほしいものである。

日常の会議やカンファレンスはぜひ、勤務時間内に業務として行って欲しいものである。時間外に自己研鑽と称して開催し、メンバーが渋々参加するようでは、「働き方改革」の意味もなく、会議の内容も十分なものとはならないであろう。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[医師の働き方改革]

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