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【識者の眼】「餅窒息の啓発:その時どうする?」薬師寺泰匡

No.5151 (2023年01月14日発行) P.58

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2022-12-27

最終更新日: 2022-12-27

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2022年も終わりを迎え、正月を迎えようとしております。この時期、餅の窒息事故が大変多くなります。年齢とともに嚥下機能が低下して誤嚥しやすくなることはよく知られており、実際に誤嚥性肺炎も50歳を境にして加齢とともに増加していきます。実際、食品の窒息事故は高齢者で多く、65歳以上の死亡者数は年間3500人以上、80歳以上が2500人以上とされます1)。そして餅については、65歳以上では2018年で363人、2019年で298人と、毎年数百人の命を奪っています。餅の窒息事故の43%が1月に発生し、正月の三が日に集中することも指摘されています1)

咀嚼能力の低下、嚥下能力の低下、喀出能力の低下など、様々な原因が絡み合って食物の誤嚥につながると考えられていますが、餅はその性質が非常にやっかいです。餅は火を入れると柔らかくなりますが、口腔内に入れたり、入れる前に冷ましたりして体温に近くなると再度硬くなる性質があります。口の中で性質が変化して粘性を高めるので、他の食べ物よりも危険性が高くなるのです。飲み込みやすいように小さくしたところで、ペースト状になりへばりつかれてしまうと対応も困難になります。

もし食事介助中や、入院中の患者さん、そして身近な人が餅をつまらせたら、どうしましょうか? ハイムリック法も推奨されますが、妊婦さんや小児では使えません。背中を叩いて吐き出させる背部叩打は簡便な方法ですが、絡まった餅を吐き出させることはとても難しいです。窒息すると数分で心停止に至ってしまうので、もし餅で窒息することがあれば、急いで救急要請をしつつ、心肺蘇生の準備をしなくてはなりません。食物を詰まらせたときにバイスタンダーCPRがあったほうが予後良好であったという報告があります2)。意識がなくなったら、とにかく胸骨圧迫をして欲しいと思います。救急搬送されればマギール鉗子などで除去しますが、搬送時間を考えると、搬送までに勝負は決しています。なお、救急隊到着前に吐き出させようと努力したかどうかは予後を左右しないという可能性も示唆されています2)。助けたければ、躊躇なく胸骨圧迫を開始して異物除去できる環境につれていくことが重要です。

【文献】

1)消費者庁:年末年始、餅による窒息事故に御注意ください! 2020. 
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/consumer_safety_cms204_20201223_01.pdf

2)Kinoshita K, et al:Resuscitation. 2015;88:63-7.

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[胸骨圧迫]

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