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[スペシャルセッション]医薬品の迅速・安定供給をどう実現するか~新薬が欲しければ海外へ?(香取照幸×武田俊彦)

No.5148 (2022年12月24日発行) P.14

登録日: 2022-12-16

最終更新日: 2022-12-27

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医師・医療従事者向け動画配信サービス「Web医事新報チャンネル」(www.jmedj.co.jp/movie/)では11月24日よりスペシャルセッション「医薬品の迅速・安定供給をどう実現するか」(全4回)を配信しています。深刻化する新薬導入の遅れ、長引く供給不安など、医薬品を巡っていま足下で起きている諸問題について、薬務行政に詳しい2人の厚労省OB、香取照幸上智大総合人間科学部教授と武田俊彦岩手医大医学部客員教授が原因と解決策を論じた本対談。ここではChapter 2「新薬が欲しければ海外へ?」のパートを中心に見どころをダイジェストで紹介します。(対談は11月14日に収録しました)


「企業届出価格承認制度」導入を提案

武田 新しい形の医薬品が次々に生まれている状況を踏まえ、私が共同代表を務めている「くすり未来塾」(薬価流通政策研究会)では、従来の類似薬効比較方式や原価計算方式だけでなく、第3の薬価算定制度「企業届出価格承認制度」を日本でも導入すべきではないかということを提案しています(参照)。

この提案に対しては「企業の言い値で払うのか」といった根強い批判もありますが、企業の側からすると、世界戦略を考えている中で日本だけ安い値段で売ることはできない。日本だけ安い値段にすると、欧州だけでなくアジアの国も含めて他の国の政府が「日本と同じ価格まで下げろ」と言ってきます。企業の投資を引き込む意味でも、世界レベルの価格を設定できる形が望ましいのではないかと思っています。

(企業届出価格承認制度を適用した薬については)①類似薬から除外する、②市場拡大の場合に薬価固定を解除する、③薬のライフサイクルで見たときの医療費を増やさない─といった形で医療保険財政にも配慮することで、(新薬の)価格を高くすることを認めることはできないかと考えています。

世界の薬が使えてこその皆保険

「イノベーションと皆保険は両方大事」という言い方がありますが、私は皆保険というのは「世界で使われている薬が日本で使えてこその皆保険」だと思っています。イノベーションと皆保険は本来どちらも必要なものであり、経済財政、医療保険財政とどうバランスを取るか、知恵を絞っていかなければいけないと考えています。

画期的新薬を日本で上市しにくい理由

香取 いま新薬といわれている薬は圧倒的にバイオ医薬品が多く、既存の製薬メーカーだけではなく、他分野の企業も医薬品市場に参入してきています。

新薬の開発はご承知の通り非常にお金がかかる。巨額の投資をして、激烈な新薬の開発競争をしています。日本は医療保険制度が完備していて、安定的な医薬品市場があるということで、従来、日本は各製薬メーカーにとって重要なマーケットになっていました。薬事法上の承認を得た新薬は原則すべて保険に収載され、収載時期も年4回(2月・5月・8月・11月)ある。世界で上市される新薬を迅速に日本国民に利用できるようにした、素晴らしい制度になっているわけですが、いま諸外国の新薬メーカーはそもそも日本で承認を取ろうとしない、あるいは承認を取ってもあえて保険収載を求めない、という状況になっています。

なぜかというと、日本で付けられる薬価があまりにも低い。中国のマーケットのほうがはるかに大きくなっていて、日本のマーケットの相対的な地位が下がっている。一方で、日本はまだG7の一員なので、例えばアジアで新薬を上市しようとするとき、日本で付けられた薬価がいわば相場価格になってしまう。そうすると全体の価格を押し下げることになるので、なかなか日本では上市できない、まず米国やヨーロッパで上市し一定の評価を得て価格をつくってからでないと、日本では上市をしないということになっています。

国内業の新薬開発力≒国際競争力も低下

世界中で生まれている新薬の中で、日本オリジンの薬はどれだけあるか。日本国内の製薬企業の「新薬開発力≒国際競争力」はどんどん低下しています。

ここのところ非常に厳しい薬価政策をとってきたこともあって、日本の製薬企業の体力はかなり落ちている。投資した資金を回収するまでに20年も30年もかかるというのが薬のビジネスモデルですので、自分たちが上市した薬が10年後にどこまで下がるかわからないという状況では、とても(新薬を)上市することはできないと思います。

「リスクプレミアム」の考え方が必要

武田 いまや「新薬の開発はバイオ」が当然の前提になっています。バイオで薬を開発するということになると、基本的に遺伝子型に応じて薬をつくることになりますので、患者の数もほぼ決まってきます。

スタートアップ企業は、他に薬をつくっていないので、他の薬がたくさん売れればいいとか、前に出したベストセラー製品で開発費を賄うということができません。そういう形の開発にどんどんタイプが変わってきているということを我々は考えなければいけない。

ハイリスクが医薬品開発の特徴というお話もありましたが、投資の世界では「リスクプレミアム」という言葉もあります。「患者数が決まっている」「他の薬でカバーできない」などリスクが高いものについてはプレミアムがのっかるということを否定してしまうと、とても日本の市場には入れないということにもなります。

薬の開発が変化していること、リスクが高くなっていること、患者数が非常に限定されていることなどを前提とした上で、いかに医療保険とのバランスを取るのかを考えていかなければいけない。そもそも薬のつくり方が変わっているということをちゃんと理解した上で議論すべきだと思います。

【関連情報】

医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会(厚生労働省ウェブサイト)
くすり未来塾「薬価・医薬品流通改革提言(第4弾)」(一般社団法人医療・医薬総合研究所ウェブサイト)

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