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【識者の眼】「ゲノム医療の推進と社会的環境の整備は車の両輪」天野慎介

No.5143 (2022年11月19日発行) P.63

天野慎介 (一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)

登録日: 2022-11-04

最終更新日: 2022-11-02

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国内ではがん遺伝子パネル検査が2019年に保険適用されて以降、いわゆるゲノム医療が急速に進展している。国の「経済財政運営と改革の基本方針2022」でも「がん・難病に係る創薬推進等のため、臨床情報と全ゲノム解析の結果等の情報を連携させ搭載する情報基盤を構築し、その利活用に係る環境を早急に整備する」とされている。

一方で、日常診療においても一定の割合で遺伝性腫瘍のがん患者が見出されるようになった。遺伝性腫瘍と診断された場合、患者本人のみならず家族にも影響を及ぼしうるため、患者や家族への丁寧な説明と遺伝カウンセリングが欠かせない。国の全ゲノム解析等実行計画においても「本事業が社会の理解と信頼に基づき適切に実施されるためにはELSI(倫理的・法的・社会的課題)への適切な対応と、そのための体制の整備が必要不可欠である」とされている。

米国では、雇用分野や保険分野などにおける遺伝情報の取得やその不適切な取扱いによって患者や市民が社会的不利益を被ることがないように、2008年に遺伝情報差別禁止法(GINA法)が成立している。国内では、個人情報の取得や第三者提供に本人同意の取得を求めるという個人情報保護法による対応のみに留まっており、不当な差別や社会的不利益の防止については法規制が存在しない。

2022年4月に日本医学会と日本医師会は連名で「遺伝情報・ゲノム情報による不当な差別や社会的不利益の防止」についての共同声明を発表した。声明では「国は、遺伝情報・ゲノム情報による不当な差別や社会的不利益を防止するための法的整備を早急に行うこと」などを求めており、全国がん患者団体連合会とゲノム医療当事者団体連合会も同日に「遺伝情報・ゲノム情報による差別や社会的不利益の防止のための法規制を求める共同声明」を発表している。

国会ではかねてより超党派議連において法律案が検討されてきたが、法案提出の直前まで進みながらも、一部の政党で意見がまとまらずに法案提出が見送られたこともあった。超党派の「適切な遺伝医療を進めるための社会的環境の整備を目指す議員連盟」は10月6日の総会で「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律案大綱」を総会で了承し、今国会での提出と成立をめざしている。ゲノム医療の推進と社会的環境の整備は「車の両輪」であり、法案の早期成立が強く望まれる。

天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[遺伝情報差別禁止法]

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