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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『8月の超過死亡』のみかた」鈴木貞夫

No.5143 (2022年11月19日発行) P.58

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-11-03

最終更新日: 2022-11-02

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8月の人口動態統計速報1)が出て、例年より死亡が多く、「超過死亡」があったと話題になっている。ここでは、超過死亡の意味について考えてみる。

超過死亡の概念は、例年に比べてどのくらい死亡が多いかということであるが、「例年」の定義は不明確で、実際に発表されている数値も一致していない2)3)。今年8月の死亡は、ここ数年の月別の死亡数から大きく外れており、2020年8月の死亡数との差が、1万7845人である。この増加分を超過死亡とし、それをどう考えるかということを今回のテーマとする。

まず、今年8月のコロナ死亡報告は7329人で、非常に多かった4)。昨年8月のコロナ死亡871人との差(コロナ死亡増加分)6458人は、超過死亡の36.1%を占める。今年最も多い2月の超過死亡1万9490のうちのコロナ死亡増加分の割合が13.9%だったのに比べ、コロナ死亡で説明できる部分が大きいことがわかる。

実際の超過死亡の値は人口の増減や高齢化などの影響を受けることは、ここでも繰り返し述べた通りである。2021年1月人口と2021年死亡者数から計算した性別年齢別(5歳刻み)死亡率を、2022年1月人口にあてはめると、昨年と同じ死亡率という仮定で見込まれる死亡数のラフな計算ができる。それによると、高齢化による死亡増加は、2万4000人程度で、月割で約2000人である。コロナと高齢化で説明できる8月の超過死亡は半分程度であり、他に原因があることも考えられる。たとえば、発見、報告されていないコロナ死亡や、コロナと関連するものの直接関係しない死亡など(医療逼迫や経済的、社会心理的な影響)である。

SNSでは、ワクチンとの関連を指摘する声が大きいが、厚労省が把握している副反応疑い報告で計上された死亡例は、ここまでの総計でも1800件程度5)で、月割で100人を切っている。この時点で、ワクチンで超過死亡が説明できるという考え方は根拠に乏しいことが見て取れる。厚労省の報告でも「死亡例の報告に関しては、現時点においては、4回目接種後の事例も含め、引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない」と結論づけられている。

月々の超過死亡には、もともとの指標としての限界以外に「ぶれ」もあり、過度な解釈はすべきではない。むしろ、平均寿命が発表された後で、本当の超過死亡の程度をきちんと評価することが重要と考える。

【文献】

1)厚生労働省:人口動態統計速報(令和4年8月分).

   https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2022/08.html

2)COVID-19 Excess Mortality Collaborators:Lancet.2022;399(10334):1513-36.

   https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02796-3

3)WHO:14.9 million excess deaths associated with the COVID-19 pandemic in 2020 and 2021.

   https://www.who.int/news/item/05-05-2022-14.9-million-excess-deaths-were-associated-with-the-covid-19-pandemic-in-2020-and-2021

4)厚生労働省:オープンデータ. https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html

5)第85回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会:令和4年度第14回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料(2022年10月7日).

   https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001000504.pdf

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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