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特集:高齢者の「過少医療」と「過剰医療」の背景と対応

No.5139 (2022年10月22日発行) P.18

木村琢磨 (埼玉医科大学医学部総合診療内科教授/HAPPINESS館クリニック)

登録日: 2022-10-21

最終更新日: 2022-10-19

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1997年東邦大学医学部卒業。国立病院機構東京医療センター,国立病院機構東埼玉病院,北里大学医学部,北里大学東病院などを経て,19年より現職。

1 高齢者は「過少医療」や「過剰医療」となりやすい
(1)「過少医療」
 「過少医療」とは,本来は適応となりうる医療が適応されないことである。
(2)「過剰医療」
 「過剰医療」とは,必要以上に検査・治療がなされることである。

2 高齢者における「過少医療」「過剰医療」の背景
(1)診断の困難性
 「非典型的な臨床症状」「診断に必要な標準的検査の実施に限界」から医学的情報が不足するためである。
(2)治療の困難性
 「薬物療法の有害作用が増大すること」や運動療法,食事療法などが意図せずに患者の負担となることによって「過剰治療」となったり,「機能・生活に関する情報不足」によって「過少治療」へつながったりすることがある。
(3)複数の医療機関への通院による臨床情報の“分散”
 高齢者は複数の慢性疾患を持ち,複数の診療科に主治医がいることもめずらしくない。各々の診療科の診療内容をすべて把握することには限界がある。
(4)ケア移行に伴う臨床情報の“途絶”
 高齢者は,受診する医療機関や療養の場が移行することが多く,ケアを提供する医療スタッフも変わる。「送り手側」と「受け手側」の臨床情報の伝達には限界がある。

3 高齢者における「過少医療」「過剰医療」への対応
(1)「診断の困難性」への対応
 「検査前確率と経過観察に基づいて,患者の機能・生命予後に関連する病態の診断(除外を含む)を優先した患者負担が少ない方針を提案し,患者の意向をふまえて診療すること」に尽きる。
(2)「治療の困難性」への対応
 高齢者総合機能評価(CGA)が有用である。また,CGAの施行と同時に基本的臨床情報(生活援助の状況,介護保険の利用状況など)を聴取しておく。
(3)「治療の負担感・価値に関する情報不足」への対応
 QOLや「何を大切にしているか」の価値観は個々の高齢者によって異なることに留意し,趣味や拡大日常生活動作(AADL)も含め把握したい。
(4)「複数の医療機関への通院による臨床情報の“分散” 」への対応
 お薬手帳を確認し,かかりつけ薬局を勧め,通院するすべての医療機関で処方された薬剤が同一の薬局から調剤されることが理想である。
(5)「ケア移行に伴う臨床情報の“途絶” 」への対応
 診療情報提供書に加え,必要に応じて電話などでもコミュニケーションをとる。他職種による情報があれば参考にする。

4 個々の高齢者に対する個別化した診療
(1)治療目標の設定
 慢性疾患における治療目標・アウトカムについて,一次予防(心血管イベント発症予防など)か,自覚症状の軽減か,QOL(治療負担の軽減を含む)か,という視点で,その意義を確認する。
(2)機能・生活をふまえた治療目標
 CGAなどの情報に基づき,特に「投与薬剤に関連して生じうる副作用」につながらないような治療目標を設定する。
(3)患者の主観的評価を加味
 各患者において,治療の負担感・価値観をふまえた対応を行う。その際,残存する認知機能に応じた意思決定支援を行う。

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