便秘は「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(以下,ガイドライン)において,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義された。さらに慢性の定義として,便秘が「6カ月以内に始まり,3カ月以上持続する」とされた。便秘,特に慢性の定義を満たさない短い期間で発症した便秘の中には緊急手術を必要とする病態が潜在している可能性もあり,その鑑別は重要である。ここでは緊急手術を必要とする便秘と慢性の便秘(慢性便秘症)の治療方針について述べる。
緊急手術を必要とする便秘の代表的疾患として絞扼性腸閉塞,閉塞性大腸癌が挙げられる。前者では腸管虚血により腹膜刺激症状を伴い,歩行時に腹痛が増強することがある。便秘は腹痛とほぼ同時,もしくは数日前から生じる。後者では大腸内腔の狭窄が緩徐に進行し,閉塞に至る。便秘も緩徐に進行し,血便や便柱の狭小化を伴うこともある。最終的には便を排出できなくなる。
一方,ガイドラインでは①排便の25%以上でいきみがあること,②排便の25%以上で兎糞状または硬便であること,③排便の25%以上で残便感があること,④排便の25%以上で直腸・肛門の閉塞感あるいはつまった感じがあること,⑤排便の25%以上で用手的に排便促進の対応をしていること,⑥自然排便回数が週に3回未満であること,のうち2つ以上を満たすことが慢性便秘症の診断基準となっており,これら症状の有無は問診上,重要である。
腸管虚血を伴う絞扼性腸閉塞では腹膜刺激症状に加えて,ショックを含むバイタルサインの変化を伴うことがある。閉塞性大腸癌においても閉塞から穿孔に至っていれば同様である。一方,慢性便秘症で排便が困難となり,いきみが生じる場合は血圧上昇を伴うことがある。
上述の症状や以下で述べる検査所見を認め,緊急手術が必要な疾患が疑われる場合は緊急手術を考慮する。緊急手術が困難な場合は,状態に応じてイレウスチューブ挿入による減圧や緊急手術が可能な医療機関への転送を考慮する。
慢性便秘症が悪化し,糞便塞栓が形成された際には浣腸や摘便を行う。なお,これらの処置は即効性があるものの,常用すべきではない。
残り1,179文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する