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【識者の眼】「反ワクチンの自由と責務」岩田健太郎

No.5115 (2022年05月07日発行) P.61

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-04-21

最終更新日: 2022-04-21

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個人的な意見だが、喫煙者だと専門医になれない、という一部学会のルールには賛成しない。喫煙習慣の有無は専門医の専門性とは無関係だし、そもそも一部の喫煙者はニコチン依存症という疾患を抱える「患者」である。特定の持病を根拠にある資格から排除するのは、医療倫理上も好ましくない。

しかし、「喫煙は健康に悪くない」と主張したり、患者にそう教える医療者は大いに問題だと思う。そういう人物はいかなる専門医にもなるべきではないし、医療者たる資格もない、とすら思う。基本的な医学知識を欠いているからだ。これは端的に職能の問題だ。

ある学会のシンポジウムに、新型コロナウイルスワクチンの効果を否定する医師が登壇することがわかり、ソーシャルメディアで話題になった。この人物は、臨床的利益がほぼ否定されている新型コロナへのイベルメクチンの投与も推奨している。

人には言論の自由があるから、反ワクチンの主張をするのは基本的人権の範囲内だ、という主張は成立しよう。が、このような人物を学会のシンポジウムに招待するのは、基本的医学知識を欠く人物を専門的な議論に招いているわけで、大いに問題だと思う。喫煙を患者に推奨する医療者が許容されないのと同じ根拠で、このような学会の態度は許容されないと僕は思う。

この学会には強固にHPVワクチンを否定する反ワクチンな人物も複数いて、しかも重鎮レベルでそういう人物がいたので、僕は大いに問題だと思っていた。さらに問題なのは、そのような反ワクチンな見解に学会で批判が起きなかったことだった。これは日本の医学会が外的妥当性よりも内的な調和をより重視しているからだと僕は思う。仲間内で「なあなあ」になるのが、日本の学会の典型像であり、ファクトに外れるよりも、調和を乱すほうが「悪」なのである。

件のシンポジウム参加者に怒りを表明したのは、薬剤師たちだった。そして、僕が知る限り、ほとんどの医師たちはこの問題に沈黙を保っている。これって、つまり、薬剤師さんたちは学会のインナーサークルに入れてもらってないんじゃないか? と職業差別的な問題すら、僕は感じてしまう。

僕は牛丼とかシャブシャブとか俗世な話題にはほとんど興味がない。が、内的妥当性と外的妥当性という意味では問題の根っこは同じであることに、学会関係者は気づいているだろうか。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[学会]

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