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【識者の眼】「臨床研究を巡る雑感②─治験、臨床試験、特定臨床研究」藤原康弘

No.5106 (2022年03月05日発行) P.61

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-02-15

最終更新日: 2022-02-15

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日本の医学雑誌、学会、そして新聞などマスメディアでは、治験、臨床試験、臨床治験、特定臨床研究など、英語で言えばシンプルに“clinical trial”と表現されるものが、様々な表現型で氾濫している。治験は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(いわゆる薬機法)第2条で定義されている、承認申請に提出する臨床試験成績の収集を目的とする試験のことである。特定臨床研究とは、臨床研究法第2条で定義されている臨床研究であり、我々の思い浮かべる“臨床研究”とは異次元のものである。ここでは、「医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性または安全性を明らかにする研究」(医薬品等の臨床試験を言っている:外国で説明するのが大変)のうち、企業から資金を得て実施するか、未承認・適応外のものを用いる場合のことを指している。臨床治験はおかしな造語である。

このリテラシーの弱さの根源には臨床試験実施(下線、筆者)の重要性を理解させる医学教育・学校教育の欠落があると筆者は思っている。科学性・信頼性が不十分な臨床試験が日本では氾濫してきた。ディオバン事件の温床となっただけではなく、コロナ禍で明らかになった、日本における臨床開発力(基礎研究の成果を様々な臨床試験を行った上で医療現場に製品として届ける力量)の弱さの原因にもつながっていると思う(本稿3回目 2021年No.5059参照)。

そんな中、昨年10月20日開催の第25回厚生科学審議会臨床研究部会で、臨床研究と薬事規制を巡っての大きな方向性が、厚労省の医薬品審査管理課長から示された。先進医療Bとして実施された特定臨床研究の既存データを薬事申請に活用できるかどうかを、一部変更承認申請を予定している品目について、パイロット的に検討しているというものである。①申請をしようとする企業が特定臨床研究の試験データの品質管理・品質保証プロセスについて実際の資料に基づいて確認・監査・点検できるのか、②企業が、解析データにアクセスして、薬事申請資料を作成することができるのか、の2点を確認中とのこと。これは、特定臨床研究で医師が行った臨床試験の客観性と信頼性が試されていることを意味する。これでゴーサインが出れば、先進医療Bの制度下で行った特定臨床研究の薬事活用の道が開かれることになるので、注目しておきたい。

コロナ禍では、全世界で独自の小さな臨床試験が多数行われたが、結局、医療に何の貢献もできていないという現実がある1)。今年は、皆で臨床研究、特に臨床試験の重要性を改めて認識しようではないか。

【文献】

1)Goossens H, et al:Lancet Infect Dis. 2021;S1473-3099(21)00705-2.

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[臨床研究]

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