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[変わりゆく矯正医療の現場②]「様々な専門性を持った医師が欲しい」─東日本成人矯正医療センター・関医師〈提供:法務省矯正局〉

No.5102 (2022年02月05日発行) P.6

登録日: 2022-02-16

最終更新日: 2022-03-02

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日本の刑事施設の医療体制は「一般施設」「医療重点施設」「医療専門施設」の3層構造からなり、全体として効率的な医療が行われるよう施設間の移送・共助システムが構築されている。3層構造の頂点にある医療専門施設の中で最大規模を誇る施設が、東京都昭島市にある「東日本成人矯正医療センター」だ。同センターの診療を統括する医療第二部長の関要次郞医師に、センターでの診療の実際、人員・設備面の課題などを聞いた。


東日本成人矯正医療センターは、旧八王子医療刑務所を母体として2018年1月に開設された。隣接する少年院(東日本少年矯正医療・教育センター)を含めた病院としての規模は病床数559床、医師定員は35名。一般内科、外科から耳鼻咽喉科、眼科まで幅広い診療科を揃える。

主に東日本の刑事施設の医療を支えることを使命とするが、病状によっては、西日本の刑事施設からも専門的な医療を必要とする受刑者が運ばれてくる。

「一般の医療現場よりもやりやすい」

脳外科医の関さんは、開設直後の2018年5月に矯正医官として東日本成人矯正医療センターに赴任した。65歳を過ぎ、定年延長で一般病院での勤務を継続していた時期に旧八王子医療刑務所を見学する機会があり、矯正医療の職場は「バリバリに働くのは体力的に厳しいけれど、現役的な仕事はできる」自身の状況にマッチすると判断した。兼業が自由にでき、元の病院での健診などの仕事も続けられる環境であることも決め手となった。受刑者の診療に関わることには特に抵抗感はなかったという。

「臨床医として私が貫いてきたことは、患者によって特別な差をつけないこと。受刑者がどんな人たちか知りませんでしたが、普通に対応することはできるだろうと思いました」(関さん)

 

実際に矯正医療の現場に立ってからも、一般の医療現場との大きな差を感じることはなく、これまでの診療スタイルを変える必要もなかったと関さんは語る。

「自分の信条として、患者の顔を見ずに画像だけ見てお話しするようなことは避けてきました。聴診器で心音を聴いたり、神経学的所見を取るために手で診たりというスキンシップを大事にしてきましたが、このセンターでも従来通りの医療を実践することができ、特に違和感を抱いたことはありません。刑務官もしっかり付き添ってくださいますので、かえって一般の医療現場よりもやりやすいんじゃないでしょうか」

矯正医療も一般医療に合わせた変化が必要

矯正施設では「社会一般の医療水準に照らして適切な医療上の措置を講ずる」と関係法律で定められている。高度な先端医療を提供する必要はないが、一般社会の病院・診療所と同水準の標準的治療を実践することが求められている。そうした視点で見たときに、センターの医療体制にはまだまだ課題があるという。

「標準的治療を実践するためにスタッフはみんな努力していますが、もう少しいろいろな専門性を持った医師が欲しいですね。医師以外のマンパワーも、例えば脳卒中のリハビリテーションなどで足りず、機能回復に必要な訓練が十分にできていない状況があります。設備も、最先端のCTや3テスラのMRIが設置されているなど矯正施設の中では最も充実していると思いますが、領域によって凸凹があり、そのあたりを改善できたらいいなと思います」(関さん)

施設内の医療を標準的なレベルに保つには、インフォームドコンセント、診療情報の開示など一般の医療の新しい常識、大きな変革を反映させていく必要がある。関さんはそのためにも、一般の医療の流れをよく理解する医師が矯正医療に多く参加する必要があると強調する。

「矯正医官になってからも、できれば兼業の仕組みを使って外部の医療機関での診療を続けたほうがいいと思います。“塀の中”の仕組みにばかり詳しくなるとかえって医療の標準化を阻害しかねません。矯正医療もどんどん変わっていかないといけないのです」


 

「まずは見学することをおすすめします」

2020年4月より医療第二部長としてセンターの診療を統括する関さん。矯正医療に携わる中で診療の幅が広がり、プライマリケアの知識も増えたと振り返る。

「内科の先生に教わりながら糖尿病のコントロールなどもしていますが、なかなか難しいですね。自分の専門以外の知識がいかに抜けていたかがよく自覚できます。矯正施設で診療をしているとレジデント時代に帰ったようで、新鮮な気持ちになります」

兼業や調査研究を大幅に認めた矯正医官特例法(日本医事新報2022年1月8日号「変わりゆく矯正医療の現場①」参照)などの効果で全国の施設での矯正医官の充足率は2020年に90%に達した。しかし施設間の偏在もあり、まだまだ医師が不足しているのが現状だ。

関さんは一般の臨床医に向けて「矯正施設は、医療を偏りなく実践できる施設です。受刑者を診る医療だからといって警戒感を持つ必要は全くありません。ぜひ矯正医療にもう少し目を向けて、非常勤からでもいいので、多くの先生に参加いただきたいと思います。設備も充実してきていますので、まずは見学することをおすすめします」と呼びかけている。

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