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5~11歳への新型コロナワクチン接種の「意義」とは?【まとめてみました】

No.5101 (2022年01月29日発行) P.14

登録日: 2022-01-26

最終更新日: 2022-01-26

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厚生労働省は1月21日、5~11歳の小児を対象としたファイザーの新型コロナワクチン「コミナティ筋注5~11歳用」を特例承認した。重症化しにくいとされる小児への新型コロナワクチン接種については、以前から多様な意見があるが、日本小児科学会が1月19日に公表した「5~11歳の健康な子どもへのワクチン接種は意義がある」とした見解が医療現場の一部で波紋を呼び、学会の姿勢を批判する声も上がっている。

有効成分量は成人用の3分の1

特例承認された「コミナティ筋注5~11歳用」は、成人用(12歳以上)の「コミナティ筋注」と比べ投与される有効成分量が3分の1(10μg)に減量されている。

ファイザーが海外で行った臨床試験では、5~11歳への10μgワクチン2回目接種後1カ月の免疫原性は、16~25歳への30μgワクチン2回目接種後1カ月と比較して1.04倍と同等であり、中和抗体価確認後に行われた解析で、2回目接種後7日以降の発症予防効果は90.7%だったと報告されている。

ただ、臨床試験はオミクロン株が出現する前の昨年6~9月頃に行われたものであり、オミクロン株に対する発症予防効果は大きく下がるとみられている。

薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は1月20日、これらのデータを基に審議し、特例承認することを了承。厚労省は速やかに承認手続きに入り、翌21日に正式に特例承認した。5~11歳用のファイザーワクチンは海外では米国、英国、カナダ、フランス、ドイツなどで認可されており、日本のファイザーR&D合同会社の石橋太郎社長は21日、「日本でも承認されたことを嬉しく思う」とのコメントを発表した。

 

長尾医師、小児科学会の「考え方」を批判

 

厚労省は、ファイザーワクチンによる5~11歳の小児への接種を3月以降に開始する方針だ。しかし、重症化しにくいとされる5~11歳の小児に対しワクチン接種をどこまで進めるかについては医療現場にも多様な意見がある。

そうした中、日本小児科学会は1月19日、会内の予防接種・感染症対策委員会(多屋馨子委員長)がまとめた「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を公表した。

医療現場の一部で波紋を呼んでいるのは、小児科学会の「考え方」のうち「5~11歳の健康な子どもへのワクチン接種は12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義がある」とした部分。重症化リスクのある「基礎疾患のある子ども」だけでなく、重症化リスクが低い年齢層とされる5~11歳の健康な子どもへの接種も推奨すると取れる見解に戸惑いの声が上がっている。

長尾クリニック(尼崎)の長尾和宏院長は、ニコニコ動画に1月21日に投稿した動画の中で、小児科学会の「考え方」を取り上げ、「日本小児科学会の『意義あり』に異議あり」と批判。「子どもは何のために(ワクチンを)打つのか。重症化予防のために打つのであって感染予防ではない。(健康な)子どもは重症化しない。『5~11歳へのワクチン接種は意義がある』とは何を考えているのか。小児科学会は反対してくれると思っていた」と学会の姿勢に疑問を投げかけた。

森内理事、メリット「圧倒的ではない」

オミクロン株感染拡大でワクチンの感染予防効果も期待できなくなる中、小児科学会は「意義がある」という言葉にどのようなメッセージを込めたのか。

担当理事の森内浩幸長崎大小児科教授は本誌の取材に対し、「意義がある」との見解について、必ずしも健康な子どもへの接種を「強く推奨するものではない」と明言。「基礎疾患のある子どもには強く推奨している。5~11歳の健康な子どもは、メリット・デメリットのバランスではメリットのほうが大きいが、圧倒的にメリットが大きいということはない」との考えを示した。

基礎疾患のない子どもへの接種について地域のかかりつけ医が保護者から相談されたときの対応については、メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を説明し、疑問点にもすべて答えた上で、それでも希望した場合に接種すべきとし、「十分納得した上で決めることが重要」と強調した。

日本医師会の中川俊男会長は1月20日の記者会見で、小児へのワクチン接種について「特に重症化リスクがある基礎疾患がある子どもたちに対して進めていく必要がある」とコメントした。5~11歳へのワクチン接種が始まる前に、接種に関わる医療従事者の間でワクチン接種の「意義」について誤解のないようにコンセンサスを形成し、共通理解を持って接種に臨むことが求められる。

健康な子どもに強く推奨するものではない(森内浩幸 長崎大学医学部小児科教授/日本小児科学会理事)

─小児科学会が出した「5~11歳の健康な子どもへの接種は意義がある」という考え方をどう解釈すればいいか。

ワクチンには、すべての人に強く勧める場合とリスクのある人に強く勧める場合がある。(5~11歳用コロナワクチンは)リスクのある人には強く推奨する、そうでない人にもメリットはあるが、強く推奨するには至らないという位置づけになる。基礎疾患のある子どもには強く推奨している。健康な子どもはメリット・デメリットのバランスではメリットのほうが大きいが、圧倒的にメリットが大きいということはない。

─5~11歳は重症化リスクが低い年齢層でもある。

日本の子どもは米国の子どもに比べるとはるかに重症化リスクが低い。米国に多いCOVID-19感染による小児多系統炎症性症候群も日本は非常に少ない。米国の子どもに勧めるような勢いで勧めるものかどうか、ということもある。

─保護者から相談されたとき、かかりつけ医はどう対応すればいいか。

メリット、デメリット(痛みや熱などの副反応)をきちんと説明し、疑問点にも答えた上で、お決めいただくこと。同調圧力をかけて打たせる類いものでは全くない。感染を防ぐ効果について聞かれれば、「接種しないよりは効果はあるが、劇的な効果はない」という説明をした上で、希望されれば、できるだけ不都合のない形で接種する。十分納得した上で決めることが重要だ。

【関連動画】

質疑応答【動画版】「子どもへの新型コロナワクチン接種は必要か?」(森内浩幸)

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