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【識者の眼】「ホームレス状態の方々のワクチン接種が実現したのは」武田裕子

No.5105 (2022年02月26日発行) P.58

武田裕子 (順天堂大学大学院医学研究科医学教育学教授)

登録日: 2022-01-21

最終更新日: 2022-01-21

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毎月第2・4土曜日に、東京都豊島区内の公園で炊き出しや医療相談が行われています。NPO法人「てのはし」や「世界の医療団」(以下、NPO団体)によるものです。私は2015年から参加していますが、利用者はコロナ禍前の倍以上になりました。そのような中、昨年10月と11月に新型コロナワクチン接種が希望者に行われました。行政とNPO団体、保健所の協力によるもので、SDGs#17パートナーシップによる目標達成の例として経過をご紹介させて頂きます。

まず、住民票のない方にもワクチン接種を、との思いを共有する池袋保健所・豊島区地域福祉課の意向を受け、NPO団体が5月に炊き出し会場でアンケート調査を実施(回答者314名)。ワクチン接種開始は96%の人が知っていて58%の方が希望。浮き彫りになった課題は、①住民票がなくクーポン券を受け取れない、②受け取っても予約できない(電話がない、ネットが使えない、やり方が分からない)、③情報不足(接種希望しない・分からないと回答した123名のうち、半数が「“副作用”の情報なく怖い」「持病が心配」「保険がない」などを理由に挙げた)。保健所の依頼による追加調査(7月実施)でも、接種が無料と知っていたのは75%にとどまりました。

これに対して、炊き出し会場での①予約受付と②ワクチン相談窓口設置、③「やさしい日本語」によるチラシ作成・配布を行いました。実施計画が伝わるように、「やさしい日本語」で作成したチラシをNPO団体と保健所職員が区内のネットカフェや宿泊所を回って配り、身分証提示には柔軟な対応を申し合わせました。接種日の前週に、夜回りを行う公園と炊き出し会場で、希望者の氏名と生年月日を伺い接種日と整理番号を書いた「接種券引換証」を渡しました。

当日は、炊き出しする公園で受け付け、予診票記入、30名ずつに分かれて徒歩5分の池袋保健所に移動。接種会場は、私たち医師が問診、協力歯科医師が接種、看護師が声掛けと見守りを行いました。食料や飲料とともに、希望者には市販の冷却ジェルシートや解熱薬、連絡先電話番号を渡し、翌日はNPO団体が公園で待機して強い副反応が出た方の宿泊を手配しました。20〜70代の72名がワクチン接種を受け、接種証明書を手にしました。3時間かけて会場まで歩いてきた人もおり、「これで仕事がもらえる」という言葉が印象的でした。

「住民票がない、わからない」人への接種券引換証の配布は現在も続いています。炊き出しに並ぶ方は470名を超えました。

武田裕子(順天堂大学大学院医学研究科医学教育学教授)[新型コロナウイルス感染症][ワクチン接種][路上生活者][SDGs][やさしい日本語]

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