株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「コロナで考えたこと(その4)─リスクコミュニケーションの巧拙」邉見公雄

No.5098 (2022年01月08日発行) P.58

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2021-12-21

最終更新日: 2021-12-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

先日、私が会長を仰せつかっている全国公私病院連盟の「第32回看護管理セミナー」をオンラインで開催した。コロナ禍の下での看護管理の実践や課題を考える会である。

坂本すが氏(日本看護協会前会長)、庄司邦枝氏(横浜市立市民病院副院長・看護部長)、長坂桂子氏(NTT東日本関東病院母性看護専門看護師)、谷口孝江氏(堺市総合医療センター副院長・看護局長)など看護界の現場で活躍する4名に講演して頂いた後、最後のトリに墨田区長の山本亨氏にご登壇頂いた。山本区長には、PCR検査やワクチン接種を迅速に行い、死者ゼロ、自宅待機ゼロの墨田区モデルがどのようにしてできたのか、行政のトップのお話を直接お聴きしたかったのである。実はこれより前に私が名誉会長を仰せつかっている地域医療福祉情報連携協議会の「第14回シンポジウム」で墨田区の西塚至・保健所長にお話を伺い、所長のドクターも凄いが行政トップのリーダーシップがなければ、あれだけのスピードでの対応は不可能だろうと推測していたからである。

謎はすぐ解けた。区長さんは墨田区で生まれ育ち1回も区外では住んでいない。隅田川と荒川の2つの川に囲まれた海抜ゼロメートル地帯で、常に災害訓練をやっており、消防・警察・医師会などと顔の見える関係が既に構築されていたのである。また、現場に出て現状を見て実態を把握し、現実的な対策を行う。そして区の広報などいろいろな手段で周知徹底、何と言っても責任はすべて自分が負うというリーダーの姿勢が奏功したのである。

これはドイツのメルケル前首相に通じるところである。現場に出て現物を見て現実的に考えるという三現主義を欧米のメディアは基本にしているようだが、日本はこれに少し劣っているのを痛感した。わが国のコロナ禍のICUの実態を最初に報道したのは英国BBCで日本のメディアではない。多分欧米のメディアはシリアやアフガニスタン、イラクなどの戦地での取材に慣れていたのであろう。平和ボケ(失礼)の日本ではフリーのライターぐらいしか経験がないのかも。安倍・菅の2人の首相の話が国民に上手く伝わらなかったのは周囲からの報告や専門家会議に引きずられ自分の意思で発言しなかったからのように思える。多くの方々もそう感じているのではないだろうか?

この星の現状と災害大国というわが国の特性を考えれば、国のリーダーやメディアはリスクコミュニケーションのスキルアップが喫緊の課題であろう。

※墨田区長の講演は全国公私病院連盟のホームページ
https://www.byo-ren.com/)特別公開中です。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top