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【識者の眼】「女性の生き辛さを考える〜『差別』の射程」中井祐一郎

No.5089 (2021年11月06日発行) P.56

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

登録日: 2021-10-27

最終更新日: 2021-10-27

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「差別」とは何か……という定義は、極めて困難である。具体的事例を考える時に、判断し難い時もあるだろう。

選択議定書を除く条約本体に関してわが国も批准している女子差別撤廃条約というのがあるが、その第1条には『「女子に対する差別」とは、性に基づく区別、排除又は制限であつて、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女子(婚姻をしているかいないかを問わない)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう』と記される。わが国におけるその具現化のために内閣府には男女共同参画局が設置され、男女共同参画社会基本法も設定された。また、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という政策目標も立てられていた。この目標を達成するために、この30%を目標ではなく義務化すれば、典型的なaffirmative action(積極的格差是正措置)といえるが、それだけで解決するのだろうか?

少なくとも29歳以下の医師に限っては、この目標は2010年度に達成されている。だからといって、一部の医学系大学で露呈した女性に不利益な得点調整が許容される訳でもなかろう。しかし、このような明確な差別のみではなく、女性が日常生活のあちらこちらで感じるもの……数字には表れないものがあるのだろう。そして、私たちが日常診療で出会う女性たちは、このような差別を受けているのかもしれない。部落解放同盟中央執行委員長であった朝田善之助は、「日常生起する問題で、部落にとって、部落民にとって不利益なことは一切差別である」と定義している。批判も多いこの定義だが、目に見えない「女性差別」を考える上では大切かもしれない。ハラスメントの定義とも、これは共通するものがある。生き辛さを抱え込む女性を診る時、このような視点も心に留めておく必要があると考えている。

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]

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