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(2)ソフトドリンクケトーシスだが 入院できない若年者 [特集:よくあるケースで学ぶ2型糖尿病のインスリン外来導入時の注意点]

No.4815 (2016年08月06日発行) P.32

紅林昌吾 (西宮市立中央病院糖尿病センター部長)

登録日: 2016-09-16

最終更新日: 2017-01-20

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  • 糖尿病であることを知らずに清涼飲料水を多飲していると,著しい高血糖とケトーシスをきたすほどのインスリン作用不足に陥ることがある

    軽度の2型糖尿病である若年肥満男性に多い

    重篤化すると糖尿病ケトアシドーシス(DKA)をきたすことがあるため,進展・悪化を確実に防止するために,インスリン治療を開始して糖毒性解除を図る

    飲水と経口摂取が可能であり,高度脱水やアシドーシスに至っていなければ,インスリン導入によって外来治療が可能である

    ベーサルボーラス療法(BBT),または混合型インスリンアナログ製剤の頻回注射療法によって,高血糖と糖毒性は早期に改善し,比較的容易にインスリンから離脱できる

    1. ソフトドリンクケトーシスとは

    清涼飲料水ケトーシス1)やペットボトル症候群とも呼ばれているが,若い肥満患者の初診で,著明な高血糖を呈するケースでしばしばみられる。糖尿病であることに気づかず,ショ糖を含有する清涼飲料水を嗜好飲料として多飲していると,血糖は上昇し糖毒性が生じる。高血糖が悪化し,口渇や多尿の脱水症状が現れると,さらにソフトドリンクを多量に飲む悪循環に陥ってしまう。糖毒性によるインスリンの分泌低下が進行すると著しい高血糖となり,インスリンの作用不足が顕著になるとケトーシスが生じる。インスリンの標的臓器においてブドウ糖を取り込めなくなり,ブドウ糖の代わりに脂肪分解によって,ケトン体が産生されるからである。重症例ではケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)で,昏睡に至ることもある。
    ソフトドリンクケトーシス患者は,基本的には一時的なインスリン依存状態2)であるので,インスリン治療を開始する。インスリンの作用不足を解消し,高度の糖毒性を解除すること,高血糖症状を消失させること,が初期治療の目標となる。

    2. インスリン導入による初期治療

    1 典型的な若年肥満患者例(34歳,男性)

    ソフトドリンクケトーシスの自験例を紹介し,インスリン治療の外来導入について解説する。
    34歳,男性。主訴は口渇,味覚異常で当院外来を受診した。一昨年(2014年)に感冒で近医を受診した際に尿糖陽性を初めて指摘されたが,特別に注意することなく過ごしていた。昨年(2015年)3月に腰痛症のため運動が困難となった。7月頃より口渇が出現し,冷たい炭酸飲料を好んで飲用していた。夜間もトイレに起きた際に飲用し,1日約3~4Lのソフトドリンクを消費し,気づくと体重は7kg減少していた。
    家族歴では,父に糖尿病と高血圧がある。既往歴は特記すべきことはなかった。
    現症では,身長170cm,体重97.1kg,BMI 33.6kg/m2の中等度肥満であった。血圧128/70mmHg,脈拍94/分。口腔内乾燥を認めた。
    初診時の検査結果(表1)では,随時血糖値560mg/dL,尿ケトン(2+)であった。血液ガスでは代謝性アシドーシスを認めなかった。血液検査上の脱水所見は軽度であったが,口腔内の乾燥から味覚障害を生じるほどの脱水症状が現れていた。
    後に,膵島関連自己抗体であるGAD抗体が陰性であること,血中ケトン体高値でありケトーシスであったこと,インスリン治療開始2カ月後のC-peptideは2.8ng/mLでインスリン分泌能は良好に回復したことが確認された。

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