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味覚障害[私の治療]

No.5075 (2021年07月31日発行) P.48

任 智美 (兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師)

登録日: 2021-08-03

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  • 味覚は甘味,塩味,酸味,苦味,うま味の基本5味で構成される。味覚障害の症状は量的異常に,味が薄い・しない(味覚低下・消失),特定の味だけしない(解離性味覚障害)が分類され,本来の味と異なる(異味症),口中に常に特定の味がする(自発性異常味覚),特定の味がきつい(味覚過敏),嫌な味に感じる(悪味症),などは質的異常に分類される。

    ▶診断のポイント

    味覚障害は口腔内だけでなく,全身を診る必要がある症候である。味覚機能検査や唾液量測定,心理検査などを施行し,特徴を把握する。症状においても,量的異常と質的異常では一部異なる特徴を持つため,わけて考えるほうがよい。時に亜鉛欠乏を伴わない自発性異常味覚の一部は,舌痛症と同様の病態を持ち,舌痛症に準じた治療で効果が得られることがある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    COVID-19の初期症状のひとつとして,味覚障害が挙げられている。自然治癒例が多いため,現段階における日本耳鼻咽喉科学会の対応ガイドでは,「嗅覚・味覚障害が急性発症した症例に対して検査や処置は行わず,不要不急の外出や医療機関受診は控えるなど適切な感染防御をしてもらうこと,発症から2週間以上経っても症状が持続する場合は再度受診してもらうこと,初診時にはステロイドやNSAIDは処方しないこと」とされている。

    原則,原因となる口腔疾患,薬剤や全身疾患がある場合は,原因が除去されると速やかに改善することが多い。

    亜鉛内服療法は,唯一受容器型味覚障害に対してエビデンスを持つ治療である。低亜鉛血症の診断基準として児玉ら1)は,血清亜鉛値60µg/dL未満を亜鉛欠乏症,60~80µg/dLを潜在性亜鉛欠乏症としている。当科では,血清亜鉛値がそれ以上でも亜鉛内服療法に効果を示す場合があるため,原則,血清亜鉛値が高値でなければ亜鉛内服療法を行う。そのほかにも鉄やビタミンなど欠乏性物質があれば補足する。心因性,特に身体表現性障害の一症状として味覚異常が現れることも多く,メンタル面からのアプローチが必要になることも多い。ベンゾジアゼピン系,特に当科ではロフラゼプ酸エチルが効果的なことも多く経験されるため使用している。もともとベンゾジアゼピン誘導体は,おいしさそのものを認知する過程に関与するとされている2)

    漢方治療も取り入れることが多い。補中益気湯,人参養栄湯,平胃散,小柴胡湯などの方剤は,「味覚異常」が古典や古医書に使用目標として記載されている。記載がない方剤でも診療において奏効することはよく経験されるが,随証判断やresponder,non-responderを区別する必要性があるため,特定のエキス製剤の有効性は評価できず,エビデンスは乏しい。

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