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【識者の眼】「急増するRSウイルス感染症」片岡仁美

No.5074 (2021年07月24日発行) P.56

片岡仁美 (岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授、総合内科・総合診療科)

登録日: 2021-07-13

最終更新日: 2021-07-13

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RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)感染症が現在、例年にない勢いで増加している。国立感染症研究所週報「注目すべき感染症」(2021年7月2日)では、「直近の新型コロナウイルス感染症およびRSウイルス感染症の状況」として注意を喚起した1)

筆者の在住する岡山県でも、乳幼児を中心に県内で患者数が急増しており、6月14〜20日の週(第24週)の1医療機関当たり平均患者数は、過去10年間の同時期で最多であり、県が注意喚起した(山陽新聞6月28日)。また、首都圏では6月28日から7月4日までの週(第26週)の患者報告数が東京、神奈川、埼玉、千葉で前週より増加し、東京では2003年の調査開始後で最多となった前週を上回っている(医療介護CBnews 7月8日)。

RSV感染症は、RSVを病原体とする乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症である。潜伏期は2〜8日で、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%の人がRSVの初感染を受ける。感染経路は飛沫および接触感染が主であり、再感染も普遍的にみられる。初感染の場合、発熱、鼻汁などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされる。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50〜90%がRSV感染症によるとされ、早産の新生児や早産の生後6カ月以内の乳児、月齢24カ月以内で免疫不全を伴う、あるいは血流異常を伴う先天性心疾患や肺の基礎疾患を有する、あるいはダウン症候群の児は重症化しやすい傾向がある。さらに、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者におけるRSV感染症では、肺炎の合併が認められることも明らかになっている1)2)

現時点でRSV感染症が拡大している原因として、昨年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う感染対策の徹底や保育所などの休園によって流行が見られなかったことで免疫を持たない乳幼児が増えたことなどが推測されているが、詳細は不明である。

また、COVID-19陽性者の中には20.7%に他の病原体の重複感染が報告されているが、RSVによるものは5%を占めていた3)。複数の感染症が流行すると合併率も上がると考えられる。COVID-19以外の感染症の流行状況にも留意する必要があろう。

【文献】

1)IDWR 2021年第25号<注目すべき感染症>

 [https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/10510-idwrc-2125c.html

2)Respiratory Syncytial Virus | Red Book Online | AAP Point-of-Care-Solutions

 [https://redbook.solutions.aap.org/chapter.aspx?sectionid=247326907&bookid=2591

3)Kim D, et al:JAMA. 2020;323(20):2085-6.

片岡仁美(岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授、総合内科・総合診療科)[小児感染症]

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