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【識者の眼】「社会的処方とCompassionate communities」西 智弘

No.5074 (2021年07月24日発行) P.61

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2021-07-08

最終更新日: 2021-07-08

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2021年6月18日、「経済財政運営と改革の基本方針2021」いわゆる「骨太方針2021」が閣議決定された。その中で、「孤独・孤立対策」の施策として「社会的処方」を活用していくことが明記された。

社会的処方とは、「薬で人を健康にするのではなく、まちの中のつながりを利用して人を元気にする仕組み」と私は説明している。例えば、「不眠」を主訴に来院した方に睡眠薬を処方するだけではなく、その不眠の原因が配偶者を喪ったことによる孤独・ひきこもりの結果だとしたら、その方が若いころに花屋を営んでいたことをもとに「まちの美化に取り組むNPO法人」とつないでみる、ということだ。そうすると、その患者はNPOメンバーと友達になり、花壇の整備という役割ができ、笑顔になって薬からも離脱できる…といったストーリーが見込めるかもしれない。

折しも、6月末に行われた日本緩和医療学会にてAllan Kellehearが「Compassionate communities」という概念を提唱していた。これは、「緩和ケアにおいて医療が関わる領域はその人の人生の5%に過ぎない。残りの95%の人生は地域において生活をしながら時間を送っているわけだが、そこに対するケアは無視されている」という前提から始まる概念だ。つまり、医療者は生命を脅かすような病(それは癌だけではなく認知症や心不全、老化なども含む)について、緩和ケア外来やホスピスでのケアを行うことで「やったような気」になりがちだが、実際には患者さんや家族は、日々の生活、また学校や職場の問題、経済的な問題、孤立や孤独、そして実存的な苦痛にさいなまれている。癌を抱えながら職場に通っているときに生じる苦痛について、誰がケアをしているのか? ということ。もちろん、そのケアの全てを医療者が担うのは難しい。だからこそ、各地域の住民や専門家が協力しながらお互いをケアし合う地域=Compassionate communitiesを整備し、「残り95%」を地域全体でケアできるまちづくりに関与していくべきだと説く。

緩和ケアの概念で言えば、いわゆる「社会的苦痛」に該当する領域だが、日本を含め世界は、この苦痛を医療者だけではなく地域全体のネットワークでケアする道を進もうとしている。皆さんの住む地域では、どうだろうか?

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[緩和ケア]

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