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【識者の眼】「敗血症と医療安全─死亡減少を目指した早期認知と診療改善の試み」中川 聡

No.5072 (2021年07月10日発行) P.66

中川 聡 (国立成育医療研究センター集中治療科診療部長、同医療安全管理室長)

登録日: 2021-07-01

最終更新日: 2021-07-01

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敗血症と医療安全は、一見関係がなさそうに見える。医療安全は、英語ではpatient safety、つまり、患者の安全である。一方、敗血症では、それなりの数の死亡が発生する。その中には、防ぎえた死が存在する。すなわち、敗血症で亡くなった患者さんやそのご家族からみれば、死亡が防ぎえたのではないか、という思いは常に付きまとう。patient safetyの観点から敗血症診療を改善できないか、という視点がそこにある。

それでは、敗血症による死亡を減少させるにはどうすればよいか。敗血症の早期の認知と急性期の診療の改善などによって、死亡の減少が試みられている。

早期認知においては本欄(No.5019)に書いたが、qSOFAのスクリーニングツールが簡便で使用しやすい。一方、敗血症に特化していないものの、患者急変の予知ツールとして、早期警告スコア(early warning score:EWS)がある。その一例が、英国で使用されているNational EWS(NEWS)である。qSOFAといくつかのEWSを比較した研究があるが、NEWSでの敗血症の認知が優れているというものが多い。一般医家と救急外来での診療、病棟での急変認知において、EWSの有用性が示されている。病棟急変においては看護師による認知が重要で、海外では看護師による早期認知にEWSが活用されている。さらには、人工知能を用いて、EWSの主項目であるバイタルサインに電子カルテ上の患者情報(年齢・基礎疾患・検査値など)を加えて判断させると、さらに早期に敗血症を予知しうる可能性が示されている。しかし、その評価はまだ定まっておらず、改善の余地も指摘されている。

急性期の診療の改善においては何ができるか。早期認知に引き続き、速やかな治療が行えるような診療フローを導入している施設がある。これによると、血管確保と必要な血液検査(乳酸値測定や血液培養を含む)、輸液開始と抗菌薬投与を速やかに行うように指示している(これらの項目はSurviving Sepsis CampaignのHour-1 Bundleに共通している)。これらを行っても血行動態の改善をみない場合は、血管作動薬の使用や集中治療室での管理を考慮するように指示している。

上記の早期認知ツールや診療フォローは、導入するだけではなく、導入効果を検証することが重要である。効果検証の最終的なアウトカムは死亡の減少であるが、これを単一施設で達成することは困難であることが多く、多施設での大規模な研究で判断されよう。アウトカムに関連するプロセスとしては、認知から抗菌薬の投与開始時間や、早期の輸液の達成率などが検証されている。

中川 聡(国立成育医療研究センター集中治療科診療部長)[敗血症の最新トピックス⑲]

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